2023.11.17

なぜ今「プロセスエコノミー」が注目されているのか?事例や実践方法までを紹介

なぜ今「プロセスエコノミー」が注目されているのか?事例や実践方法までを紹介

今までは新たな商品を製造して販売する、または真新しいサービスを作り上げてユーザーに提供するというのが一般的なビジネスモデルでした。しかし、昨今ではたくさんの企業やクリエイターがあらゆる商品、サービスを生み出している時代となり、既にそれぞれの差別化は難しく、良いものを出しても埋もれてしまったり、売れ筋の商品が出ればすぐに模倣されて飽きられてしまいます。

そのようなサイクルの中で他社との差別化を図ろうとする場合、これまでは宣伝や広告などに多額の費用を注ぎ込むケースが多くありましたが、現在、「プロセスエコノミー」という新たなビジネスモデルが注目され始めています。

プロセスエコノミーは実は誰でも始められるビジネスモデルですが、やり方を間違えるとデメリットもあります。そのため、この記事ではプロセスエコノミーとはどのようなものなのか、どのように行うべきなのかを、事例を交えて紹介していきます。

プロセスエコノミーとは?

最近ネット界隈を中心に、よく耳にするようになった「プロセスエコノミー」。何となく聞いたことはあるけど、実際にどういうものなのかはわからないという方も多いのではないでしょうか?

まずはプロセスエコノミーとは何なのかについて見ていきましょう。

プロセスエコノミーの誕生

まずプロセスエコノミーという言葉ですが、これは2020年に、実業家として有名な古川健介氏(けんすう氏)が自身の「note(ノート)」で「『プロセス・エコノミー』が来そうな予感です」と記事を書いたことで話題となり、2021年には書籍『プロセスエコノミー  あなたの物語が価値になる』(尾原和啓・著/幻冬舎・刊)が発行され、新しいマーケティング手法として注目されています。出版者である尾原和啓氏は著書の中で「プロセスエコノミー的な考え方はこれからを生きるすべての人に関係がある話で、特別な人にだけ必要な概念ではない」と語っています。

「プロセスエコノミー」を簡単に説明すると、完成された商品や成果物といった最終的なアウトプットにだけ価値があるのではなく、それらを制作する過程(プロセス)にも価値があり、その過程を収益につなげるという考え方です。

新しい製品やサービスなどは有名になればなるほど、模倣が横行するようになります。でもプロセスのコピーはできません。自分の好きなことや夢を追い求める姿、様々な壁を乗り越えながら何かを生み出す過程はその瞬間にしか立ち会うことができません。

また、最終的な商品や成果物自体に課金するアウトプットエコノミーが一定の規模まで到達すると、差別化するポイントはプロセスしかなくなってきます。色々な界隈で聞く話かもしれませんが、「ユニクロのジーンズと、リーバイスの高価格に設定されているジーンズの品質に実はほとんど差はない」という具合です。だからこそ服を作るプロセスが注目されるようになっているのです。

プロセスに価値が置かれるようになると、単にプロセスを提供し続けているだけでも課金されるような状況になりつつあります。例えばプロセスにまつわるコミュニケーションが強力なコンテンツとして大きな収益を上げているサービスとして、オンラインサロンやライブ配信のようなサービスが挙げられるでしょう。

アウトプットエコノミーとは?

さて、プロセスエコノミーについてはお分かりいただけたかと思いますが、上記で出てきたアウトプットエコノミーについても解説しておきます。

アウトプットエコノミーとは、プロセスエコノミーの反対で「プロセスでは課金せずに、アウトプットで課金する」という、いわゆる「できた商品そのものを販売する」ビジネスモデルのことです。これは今まで一般的とされてきた商売の仕方です。

例えば、音楽なら曲を、洋服ならジャケットを、というようにアウトプットのかたちはさまざまですが、いずれも完成した品物が店頭などに並びます。これが今までのビジネスモデルでした。

こうしたアウトプットエコノミーにおいては、製品の品質や流通価格、マーケティングなどで差別化を図ることが重要になってきます。いい製品をなるべく安く提供し、適切に知ってもらう。ところが先でもご紹介した通り、この競争が進んだ結果、現在ではモノが多すぎて品質などの差がほとんどなくなり、このスタイルが通用しづらくなっているのです。

プロセスエコノミーのメリット

ではここまでご紹介してきたプロセスエコノミーですが、このビジネスモデルを活用することでどのようなメリットがあるのでしょうか?

・新たなファンの獲得

まず一番特徴的なメリットとして挙げられるのは、長期的なファンを獲得できる可能性が高いということでしょう。

実際、皆さんの中にも例えば映画や絵画などのメイキング動画を見て、より一層作品や作者への興味関心が深まったということはないでしょうか?製作中のプロセスも知っているからこそアウトプットの作品にもより親しみを感じ、観客のひとりとして自分も作品に参加しているような気持ちになることもあるでしょう。またそうした作品を発見すると、その作者が次に生み出すアウトプットもおのずと気になってくるものです。

従来では、ファンクラブへの誘導や各種PR告知などによりファンを増やす努力が行われてきましたが、最近は楽曲、小説、映画などの製作プロセスをリアルタイムで公開することで、作者だけではなく作品自体にも新たに興味を持ってもらい、ファン層のさらなる拡大、ファン人数の増加を図っている事例が増えています。「いつも応援している人だから次の作品も購入する」「この作者の想いに共感したからもっと頑張ってほしい!」と、過程を知ってもらうことで商品が出来上がる前にファンになってもらうことができるのです。

・安定した収益の確保

プロセスエコノミーのメリットのひとつには、安定的な収益源を確保できるというメリットもあります。例えば自分の持っているノウハウや生み出したプロセスを共有するオンラインサロンを開催して毎月会費を集めたり、何かしらの作品を製作する過程をインターネット上でライブ配信し、継続的な収益を確保することが可能になるのです。また、まだ形になっていない商品のその製作過程を公開することで、完成する前に資金を調達することさえも可能になります。

通常であれば、金融機関からの融資を得にくいようなビジネスであっても、プロセスエコノミーを活用すれば必要な資金や収益を獲得することが可能になる、ということは大きなメリットであると言えます。

・表現力や発信力の向上

これはメリットの1つ目でご紹介した、長期的なファンを獲得できる可能性があるという点に関わってきますが、プロセスエコノミーを活用すると、これまでのようにただそのアーティストが好きだから、応援したいから、と支援してくれるファン以外に、作品自体、または作品の製作過程に魅力を感じて支援してくれるファンも増えます。

そのようなファンは、このアーティストなら次の作品もきっと素晴らしいものを提供してくれるに違いない、面白い企画を見せてくれるに違いないという期待を持っていることでしょう。アウトプットの品質や価値がほとんど横並びの状態では、プロセスを見せることで差別化する必要があり、己の表現力や発信力、企画力などが試されます。

またその他にも、プロセスエコノミーでは商品やサービスの魅力を多くの人にわかりやすく強烈に印象付ける力や、動画、メルマガ、ホームページなどによる情報提供を適切なタイミングでユーザーに届けることも求められます。

これらを実践するには大変な努力が必要になりますが、表現力や発信力の向上を目標としている方にはまたとない環境になることでしょう。

・製作者としてのモチベーションの向上

最後のメリットはクリエイター自身の孤独感の解消です。作品や商品を制作しているクリエイターなどにとって、作品に向き合っている間の孤独はもはや付き合わなくてはならない宿命とも言えるものですが、その制作過程を動画やSNSで配信し、コメントやいいねなどで多くのファンにリアクションをもらうことで、作品制作の新たな原動力とすることができるかもしれません。

このようなケースでは、正確に言うと製作者のファンというよりも製作物に対するファンが増える、と言えるかもしれません。つまり、今回の作品が高い評価を受けているからといって必ずしも次回作が高い評価を受けるとは限らないのです。

プロセスエコノミーの場合は、短い期間で熱狂的なファンを生み出すことは可能ではありますが、長年のファンを獲得するためにはクオリティの高いプロダクトを生み続けるという不断の努力も必要になると言えます。ある程度の期間ずっとファンでいる人は、製作者との距離も縮まり、身近な存在として捉えるようになっているので、この段階では作品だけではなく製作者自身のファンになっていると考えてもよいかもしれません。

プロセスエコノミーの活用事例

さて、ここまでプロセスエコノミーが一体どういうものなのか、どういうメリットがあるのかなど理解いただけたことと思います。

では実際に現在どのような分野でプロセスエコノミーは活用されているのでしょうか?いくつかの活用事例もご紹介していきます。

クラウドファンディング

「クラウドファンディング」はプロセスエコノミーを代表する事例のひとつです。

クラウドファンディングは単なる予約販売とは違い、インターネット上で公開した資金募集案件に対して投資者や寄付金を募る仕組みです。プロジェクト起案者は、自身の掲載するプロジェクトに共感した方から資金を集めるために、まずは訪れた人に精一杯プロジェクトの魅力を伝える必要があります。そのためには企画書や制作段階を詳しく公開し、作り上げる過程をストーリーとして共有することで、出資者に支援を呼びかけます。

例えば「革細工」でクラウドファンディングを実施する場合、まず新しい作品を作る意義を伝え、それからデザイン、機能、材料、染色、縫製など、完成に至るまでの一連のプロセスを公表します。そして、そのプロセスやこだわり、想いなどを含めたストーリーに共感した人が支援者となり、資金提供するのです。このような特徴から、クラウドファンディングは、プロセスをビジネスにするプロセスエコノミーに該当すると言えます。

この他、やりたい企画やイベントなどの「前売り券販売」もできるのがクラウドファンディングの特徴です。オンライン講演会や大規模イベントの前に、その企画や打ち合わせの風景、会場設営の様子などを公開することで、その姿に共感して興味を持ってくれた人に前売り券の購入という形で支援してもらう方法があります。

オンラインサロン

「オンラインサロン」も成長過程を販売するビジネスモデルと言えます。オンラインサロンとは、Webサービスなどを使った有料会員制のオンラインコミュニティのことを指します。

オンラインサロンにおいてプロセスエコノミーがかつようされる部分は、オンラインサロンを有料会員制にすることで、事業開発や映画製作、投資学などの過程や自己流のプロセスを公開することで収益を確保することが可能になる点です。

提供される主なサービス内容は、そのサロンのテーマにそったネタの投稿やメルマガ、動画などの配信が行われたりします。またサロンメンバー同士による交流の場ともなっており、同好の人脈づくりやコミュニケーション、切磋琢磨やスキルアップなどにも利用されています。昨今では有名人もオンラインサロンを活用する人が増えています。

・西野亮廣さん

お笑いタレント・俳優の他にベストセラー作家としての顔など、多彩な経歴を持つ西野亮廣さんが開設したオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」では、西野さんが考えるエンタメの未来や、現在手がけているプロジェクトを、まだ公開できない構想の段階から共有する場となっています。

エンタメを作っていく過程で得た学びや、考え方、直面した問題などを会員限定の記事として毎日投稿したり、サロンの中で仕事を依頼することで場合によってはクリエイターとして一緒に作るところから参加できることもあります。

西野亮廣エンタメ研究所は、日本最大規模のオンラインサロンとしても有名で、月額1,000円のサロンには7万以上の人が参加しており、最も成功しているプロセスエコノミーと言っても過言ではないでしょう。

https://salon.jp/nishino

・古川健介さん

アル株式会社の代表取締役、古川健介さんは、「アル開発室」というオンラインサロンを開設しています。

「アル」は、クリエイターエコノミーの事業に挑戦しているアル株式会社の裏側を知れるコミュニティです。クリエイター向け作業配信サービス「00:00 Studio」やデジタルデータを数量限定で売り出せるサービス「elu」、マンガサービス「アル」について、社長のけんすう氏がリアルタイムに共有しており、漫画の最新ニュースや無料公開の情報が掲載されているほか、出版社から許諾を受けた漫画のコマ画像も投稿されており、ユーザー同士で漫画の面白さを共有できます。

「アル開発室」では、アルを通じて有名漫画のプロジェクトに参加したり、アルの開発状況を知ったりすることができます。クリエイターや創作活動に興味がある人にとっては大変興味深い内容でしょう。

https://salon.jp/alu

OEM

OEMと呼ばれるオリジナルアイテム作成もプロセスエコノミー活用法の1つです。OEM(Original Equipment Manufacturing)とは、品物を売る企画・制作・販売のうち、制作のみをすることを指し、こんなアイテムがあったら欲しいという人のためにオリジナルアイテムの制作を引き受けるビジネスモデルです。

例えば、アクセサリーを制作している動画配信者が「どんなアクセサリーなら欲しい?」と閲覧者に意見を求めたとします。そして、閲覧者の意見で「◯◯を使ったネックレス」が多くの共感を得たとしたら、その結果を受けて配信者が「◯◯を使ったネックレス」の商品化に向けた制作に取り組むといった具合です。

普通のECストアなどで同じような品質の商品やサービスを見かけた場合、開発プロセスに自分が関わった商品やサービスの方を選びたいという気持ちは皆さんにもイメージできるのではないでしょうか。みんなが欲しいと思うアイテムを一緒に作ることも、過程を共有するプロセスエコノミーなのです。

プロセスエコノミーを実践する上での注意点

ここまでプロセスエコノミーを活用することについてのメリットをいくつかご紹介してきましたが、実践する上でのデメリットやプロセスエコノミーが適さないケースなどはあるのでしょうか?最後に注意点についても触れておきましょう。

ライバルに手法が知られてしまう

プロセスエコノミーはアウトプットを売るのではなく、そこに至るまでの過程に価値を見出し、提供するビジネスモデルです。

とはいえ、新しい技術やアイデアをアウトプットの発売前から開示してしまうと、他者に模倣されたり追随されたりするリスクも少なからず出てきます。これまで、日本のビジネスにおいて、商品開発に対する思いや過程などは公表すべきものではなく、完成品の品質で勝負するという傾向にあったのも頷けます。

ただ人が本当に感動し共感するのは、商品やサービスの裏側にある思いや努力、試行錯誤の過程なのです。今まで隠しておくべきだと思っていたプロセスが、差別化の突破口になるかもしれない、という逆転の発想でプロセスエコノミーに挑戦してみるのはいかがでしょうか。

軸がブレやすい

プロセスエコノミーというビジネスモデルでは、メリットの部分でも挙げましたが長期的なファンが集まりやすい傾向にあります。

当初は運営者なりの目標を掲げ、その実現に向かって邁進するプロセスを見せているはずが、いつの間にかファンの「もっとこうであってほしい」「もっとこういうものを見せてほしい」という期待に応えるために動くようになってしまったり、ファンに何を見せたら面白いと思ってもらえるのか?という点を重視してしまうあまり、本来の目的を見失ってしまうことも多々あります。

目指すべきゴールに向かうための手法であるのに、ゴールが変わってしまっては本末転倒です。プロセスエコノミーは、ゴールを明確にしたうえで軸がブレないように実践していくことが大切です。

ファンが熱狂しやすい

上記に似ている点ではあるのですが、コミュニティを熱烈に支援してくれるファンの存在は、プロセスエコノミーの基盤を支える大変貴重な存在ではあります。しかしながら、そういったファンは熱が覚めると強烈なアンチに変貌してしまう可能性もあります。

例えば運営側が書き込んだ何気ない言葉がファンの反感を買ってしまい、SNSが炎上して大きなイメージダウンなどに繋がってしまうリスクもあります。したがって不用意な発言や発表をしないように事前チェック等の対策を講じるとともに、問題が拡大しないようにSNSの炎上問題に詳しい専門家に協力してもらうなどの対策もしておくと安心です。

コンテンツ内容の方向性

過激な主張や表現を含んでいるコンテンツには熱烈なファンがつきやすい傾向がありますが、注目されればどんなコンテンツでも構わない、ということはありません。上記アンチファンの問題も併せて、多くの人々からのブランドイメージが大きく損なわれるコミュニティ運営は避けなければなりません。

プロセスエコノミーはひとつのビジネスモデルであるので、ビジネスとして上手く回らなければモデルとしての価値はありません。にもかかわらず、一時の人気獲得のために運営側が倫理観の欠如したようなコンテンツを提供し続けていれば、長い目で見ると多くのユーザーは離れてしまいますし、運営側自体も大きくイメージダウンを招き、事業を継続することが難しくなってしまうでしょう。

まとめ

現在、世の中のトレンドを生み出しているのはインフルエンサーなどの、極めて影響力が高い人々であり、インフルエンサーがテレビや雑誌、SNSやネット配信などを通じて紹介する情報はあっという間に世間に広まります。

さらに、昨今ではほとんどの消費者が商品やサービスに対してレビューや評価をすることができるようになっていることから、商品やサービスのクオリティの向上は加速しており、品質や性能などで差別化することも困難になってきていると言えます。

そこで新たなビジネスモデルとして生み出され、将来的にもさらに拡大していく可能性の高いプロセスエコノミーですが、他社が同じようにプロセスエコノミーを強化していくと、ゆくゆくは従来のアウトプットエコノミーと同様に差別化がしにくくなる、という課題が再び生じる可能性があります。最初の頃は、物珍しさもあって、多くの利用者が参加してくるでしょう。しかし徐々に利用者は食傷気味になり離れていってしまうなどの可能性も考えられるのです。

これからは、アウトプットエコノミーを完全に排除してプロセスエコノミーに頼るのではなく、従来のアウトプットエコノミーと合わせて柔軟にビジネスの展開を考えることが重要になると言えます。

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