ISOで標準化されたイノベーションマネジメント・システムから考えるべきこと

2020/2/26

イノベーションマネジメントとは、組織における「革新」や「新機軸」について、管理・推進することを指します。

世界のさまざまな基準を定めている国際標準化機構(ISO)でも、「イノベーションマネジメント・システム」が定義されるなど、今注目を集めています。

ひと昔前だと、「イノベーション=閃き」といったイメージで語られることが多かったのですが、決してそうではありません。

イノベーションがある日突然生まれるということは稀で、お客様の声や現場の改善など、組織や個人が培ってきた経験や知識などが元となり、生み出されることがほとんどです。

つまり、組織としてイノベーションが生まれる仕組みを整え、マネジメントしていくことが重要な要素となります

この記事では企業におけるイノベーションマネジメントの重要性を、上述したISOの内容を参考にしながら解説していきます。

日本の企業がイノベーションを起こしにくい理由

日本からGAFAのような圧倒的なポジションを築く企業や、ユニコーンと呼ばれるような非上場で10億ドル以上の評価をされる企業が少ないのは、決して偶然ではありません。

日本の企業を取り巻く環境や、企業内における制度そのものが、イノベーションを阻害する要因となっています。

これは著者が、日頃より新規事業の創出やグロースの支援を行うにあたって、感じる部分でもあります。

具体的に見ていきましょう。

終身雇用、年功序列という雇用形態

日本の企業の一部では、文化的に「失敗できない」ということが、イノベーションを生みにくいい体質にしています。

イノベーションを起こす新しい取り組み、即ち新規事業の類は、どうしてもやってみなければ分からないという、不確実性が高いものになりがちです。

つまり、失敗という一定のリスクを取らなければならないのです。

しかし日本の企業における成果報酬の部分の割合は、一般社員だと平均約6%というデータもあり、未だ終身雇用・年功序列という制度を色濃く残している企業もあります。

こういった制度になっている以上、社員は自らリスクを取りにいき難いというのが実情です。

もし新規事業で失敗すれば、会社に損害を与え立場が弱くなる上に、「仕事ができない」というレッテルを貼られ、出世の道が閉ざされる可能性すらあります。

終身雇用や年功序列という制度を真っ向から否定するつもりはありませんが、少なくとも会社として、社員がリスクを取って動ける環境を用意することは必要でしょう。

イノベーションマネジメントを行う上では、このような組織の制度自体を見直す必要も出てきます。

イノベーションを起こせる人材の不足

先ほど説明した企業制度の背景から、日本の企業ではイノベーションを起こせる人材が不足しています。

不確実性の高い新規事業の領域は、既存事業の仕事の進め方とは全く異なります。

小さな仮説検証を繰り返し、事業の方向性を決めるという、ある種の経営能力が必要となるのです。

イノベーションを起こせる組織を作ろうとした際、誰を登用すべきかという問題は、必ず出てくる課題です。

ガラパゴス化が進んだ経済環境

日本では経済的な視点からも、イノベーションが興りにくい環境と言えます。

要するに日本の社会全体として、新規事業への投資資金が少ないということです。

一例ではありますが、ベンチャーキャピタルの投資額を見ると、日本はアメリカの50分の1と言われています。

投資によってリターンを得るという行為自体が、まだまだ一般的ではありません。

日本では戦後に人口ボーナスを使った経済成長を遂げたため、一般の人は投資をせずとも銀行にお金を預けているだけで、多額の利息を得ることができました。

その影響もあり、未だ個人というミクロ単位からも、投資という概念が希薄になってしまっています。

経済全体として、正しいリスクを取って、大きなリターンを狙うというポートフォリオの割合が低いのです。

この部分はニワトリが先か、卵が先かの問題と同様、投資(出資)により大きなリターンが見込める日本企業が少ないという点もあるでしょう。

しかし、社会としてもっと新規事業やベンチャー企業にお金が流れる仕組みや環境を作るということも、絶対に必要となってきます。

イノベーションマネジメントの重要性

日本で定常的にイノベーションを起こすためにも、企業内でイノベーションマネジメントを実行することが大切です。

このイノベーションマネジメントを体系化したものが「イノベーションマネジメント・システム」で、国際標準化機構がISO 56002としてまとめています。

概要を簡単に紹介してきます。

イノベーションマネジメント・システムとは

組織が効果的、かつ効率的にイノベーションを起こせる体制・プロセスを確立させるための仕組みが、イノベーションマネジメント・システムです。

ISOでは、組織がイノベーションマネジメント・システムを導入すると、次の効果が得られるとしています。

  • 不確実性をマネジメントできるようになる
  • 生産性が上がり、リソースを効率的に使えるようになる
  • 組織の持続可能性が高まる
  • ステークホルダーの満足度が向上する
  • 製品やサービスのポートフォリオが最適化される
  • 組織内の人材の活性化に繋がる
  • 組織の価値が高まる
  • コンプライアンスが遵守されるようになる

また、組織がイノベーションマネジメント・システムを導入するには、次の要素が必要になるとしています。

  • 価値の実現
  • 未来志向のリーダー
  • イノベーションによって成しえる戦略の方向性
  • チャレンジを支援する組織文化
  • 検証プロセスの追求
  • 不確実性のマネジメント
  • 柔軟性
  • 制度設計へのアプローチ

詳細を説明すると膨大な量になるので、このあたりの内容は、また別の記事で解説していきます。

まとめ

この記事では日本の企業でイノベーションが起こりにくい理由を、「組織の制度」「人材不足」「投資環境」という3点から説明し、イノベーションマネジメントの重要性をISOの内容と共に紹介していきました。

特にISOのイノベーションマネジメント・システムでは、組織にイノベーションを起こすために重要な要素や方法が細かく定義されています。

この内容については、また別の記事で少しずつ紹介していきたいと思います。

あなたの組織はイノベーションを起こせるようになっているでしょうか?

「投資環境」はなかなか変えられませんが、「人材不足」は外部の人間を入れるという手もありますし、「組織の制度」は新規事業部の創設という手もあります。

ぜひ多角的に考えてみてください。

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