新規事業がうまくいかない理由とは? 大企業に共通する3つの構造的課題と実践的な打開策
2026/3/6
「新規事業開発に取り組んでいるが、なかなか成果に結びつかない」――こうした悩みは、大企業の新規事業開発責任者にとって決して珍しいものではありません。
アビームコンサルティングが実施した調査によれば、大企業が取り組んだ新規事業のうち累損解消に至った割合はわずか7%であり、裏を返せば93%の新規事業は失敗に終わっています。また、パーソル総合研究所の調査でも、自社の新規事業開発について「成功に至っていない」との回答が36.4%、「どちらでもない」が33.0%に上ります。
しかし、これほど多くの企業がうまくいかない中でも、再現性をもって新規事業を生み出し続けている企業は確かに存在します。両者を分けるのは、個人の能力差ではなく「組織の仕組み」と「プロセスの設計」です。
本記事では、新規事業がうまくいかない構造的な原因を整理し、大企業の新規事業開発責任者が明日から実行できる打開策とチェックリストをお伝えします。
新規事業がうまくいかない原因:3つの要点
新規事業がうまくいかない主な原因は、次の3つに集約されます。
- ビジョンや新規事業開発に関する方針・戦略がない(判断軸の欠如)
- 良質な多産多死を実現するための組織になっていない(評価・人材の不適合)
- 適切な事業開発プロセスを実行していない(方法論の目的化・安易な模倣)
以下、それぞれの原因を掘り下げ、実務で使える対処法をご紹介します。
新規事業の成功率はなぜ低いのか? データで見る厳しい現実
大企業の新規事業、約9割が投資回収に至らない
新規事業開発の厳しさを示すデータは複数存在します。
アビームコンサルティングの調査によると、大手企業の新規事業が立ち上げに至る確率は45%、単年で黒字化する確率は17%、累損解消に至る確率は7%、中核事業にまで育つ確率は4%とされています。
また、クニエが実施した事業グロースに関する調査では、事業開始から3年経過時点で最重要KPIの達成度が100%以上を「成功」と定義したところ、81%の新規事業が事業グロースに失敗していることが明らかになっています。
さらに、書籍『イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント』(北嶋貴朗著)でも、新規事業の成功確率は「センミツ(千に三つ=0.3%)」と表現されることすらあると指摘されています。
イノベーション活動は増加しているが、成果は伴っていない
注目すべきは、日本企業のイノベーション活動自体は増えているという点です。文科省が実施する「全国イノベーション調査」によれば、新規事業開発等のイノベーション活動に従事する会社は2015年の38%から2022年の51%まで増加しています。
また、同調査の最新版では、対象母集団のうち51%の企業がイノベーション活動を実行しています。つまり「やっている」企業は増えているにもかかわらず、新規事業開発の成功ケースはわずかであり、再現性まで含め成功率を高められていないのが実態です。
一方で、2024年度の法人企業統計によると、内部留保に当たる利益剰余金は637兆円に達し、過去最高を更新しています。稼ぐ力は高まっているのに、その原資を次の成長エンジンに転換できていない。これが日本の大企業が直面している構造的な課題です。
新規事業がうまくいかない3つの構造的原因
原因1:ビジョンや新規事業開発の方針・戦略がない
新規事業がうまくいかない最大の原因は、全社的な方針や戦略が定義されていないまま個別の事業に着手してしまうことです。
書籍『新規事業開発マネジメント』では、方針・戦略の欠如がもたらす問題として以下の連鎖が指摘されています。
| 問題 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 判断軸の欠如 | 自社に必要な新規事業の領域や要件が不明確で、良い事業構想を練れない |
| 投資判断の困難 | 原資の確保や適切な投資配分ができない |
| リソースの浪費 | 各部署がバラバラに取り組み、優先度の高い事業に集中できない |
| 現場との乖離 | 経営層の意図が伝わらず、現場が当事者意識を持てない |
| 突然の中止 | 方針と合致しないプロジェクトが縮小・撤退に追い込まれ、挑戦する風土が損なわれる |
PwC Japanの「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025年」でも、成功企業と挑戦企業の間では「全社戦略の打ち手として位置付けたうえでの新規事業推進」に大きな差があることが明らかになっています。
すぐやる一歩:インキュベーション戦略の3要素を定義する
以下の3要素を経営層と合意形成することで、判断軸を構築できます。
- 目線と時間軸:3年以内の収益貢献か、5~10年スパンの新領域探索か
- 狙う領域:既存事業の隣接領域か、完全に新しい市場か
- 投資ポートフォリオ:許容リスクと期待リターンのバランス
原因2:良質な多産多死を実現する組織になっていない
新規事業は本質的に不確実性が高く、多くの挑戦の中から少数の成功を見出す「多産多死」が前提となります。しかし、多くの大企業では、この前提に適した組織設計ができていません。
評価制度の不適合
既存事業に最適化された評価制度は、新規事業の最大の障壁となり得ます。
- 減点方式の弊害:既存事業では「失敗しないことが出世の近道」となりがちです。不確実で失敗する可能性が高い新規事業に、そのような減点方式は適していません
- リスクとリターンの不均衡:成功した場合の見返りがスタートアップと比較して限定的であり、リスクを取って挑戦する動機が薄い
- 優秀な人材の定義の違い:既存事業で評価される人材と、新規事業に必要な人材の資質は根本的に異なります
michinaruの調査では、新規事業推進部署が直面する壁として「ノウハウの不足」「既存事業の非協力・部署間の壁」が上位に挙げられ、社内の反応は「無関心」、特にネガティブな反応を示した層は「管理職」であることが分かっています。
経験者不足という根深い課題
書籍『新規事業開発マネジメント』では、多くの企業において新規事業開発の経験者が圧倒的に不足しており、経営トップやマネジメント層ですら事業開発経験を持っていないケースが少なくないと指摘されています。この結果、既存事業の考え方や論理に基づいて新規事業の意思決定やマネジメントが行われ、構造的な歪みが発生します。
すぐやる一歩:評価・組織の「二重基準」を設計する
| 項目 | 既存事業の評価軸 | 新規事業の評価軸 |
|---|---|---|
| 成果指標 | 売上・利益の達成度 | 仮説検証の量と質、学びの蓄積 |
| 評価方式 | 目標管理(MBO)中心 | OKR的な挑戦目標の設定 |
| 報酬設計 | 職位・等級連動 | 成果連動型インセンティブの検討 |
| 失敗の扱い | 減点要素 | 学習として記録・共有 |
原因3:適切な事業開発プロセスを実行していない
3つ目の原因は、事業開発プロセスの設計と実行に問題があるケースです。
方法論の目的化
「リーンスタートアップ」や「オープンイノベーション」といった方法論は、あくまで事業を成功させるための「手段」です。しかし、新規事業開発の経験者が少ない組織では、特定の方法論を「よりどころ」にしてしまい、手段が目的化するケースが頻発します。
スタートアップの安易な模倣
大企業がスタートアップの事業開発プロセスを安易に模倣してしまう問題も見逃せません。既存事業の資産や顧客基盤などの経営資源を保有しているにもかかわらず、それらをまったく活かさずに新規事業を立ち上げようとすると、以下のような事態に陥ります。
- 大量のリソースを投下した後で、「自社では実現できない」と判明する
- 実現はできるが何の競争優位性もないことが分かる
- スピードではスタートアップに勝てない
書籍では、「最終的に自社の経営資源が事業の独自性や競争優位性の源泉になり得る事業こそが、企業内新規事業において目指すべき本質」であると述べられています。
すぐやる一歩:自社プロセスの「健康診断」を行う
以下のチェックリストで、自社の事業開発プロセスを点検してみてください。
- ■ 全社的な新規事業開発の方針・戦略が言語化されているか
- ■ 事業構想の評価基準(ステージゲート)が明確に設定されているか
- ■ 顧客セグメントは具体的に絞り込まれているか(広すぎないか)
- ■ 自社のアセット(経営資源)が競争優位性の源泉として組み込まれているか
- ■ 撤退基準と判断プロセスが事前に合意されているか
- ■ 検証結果の判断基準が、チームと評価者の間で擦り合わせられているか
フェーズ別:新規事業がうまくいかない典型パターンと回避策
新規事業開発はフェーズによって論点が大きく変わります。ここでは、各フェーズで陥りやすい失敗パターンと回避策を整理します。
0→1(事業構想フェーズ):「何でもよいから始めろ」の罠
典型的な失敗パターン
- 方針なく「とりあえず新規事業アイデアのコンテストを開催する」
- 競合がやっているから、慌ててオープンイノベーションを始める
- 顧客セグメントが抽象的で広すぎ、深い課題発見につながらない
回避策
顧客セグメントの絞り込みは特に重要です。書籍『新規事業開発マネジメント』では、大きな事業を生み出そうとするほど顧客セグメントを広く設定したくなる心理が働くが、革新的な事業を生み出すためには思い切って絞り込むことが重要であると述べられています。
絞り込むことは「その顧客にしかプロダクトを提供しない」ということではなく、プロダクトが広く普及するための「良質な初期顧客」を見定めるプロセスです。
1→10(事業創出・事業化フェーズ):PoCの「やりっぱなし」
典型的な失敗パターン
- 仮説検証を繰り返しているが、検証結果の判断基準が曖昧で前に進まない
- PMF(Product-Market Fit)達成前に、マーケティングや営業への投資を始めてしまう
- プロダクト開発が、技術的な完成度を追い求めてオーバーエンジニアリングに陥る
スタートアップの撤退要因を調べた調査でも、「市場が存在しなかった」が第1位の撤退理由であり、PMFしていない事業ではどんなに営業やマーケティングを改善しても受注にはつながりません。
回避策
- 検証活動の「判断基準」を事前に設定する(例:5サンプル中3サンプル以上が課題を抱えていなければ仮説変更)
- PMF達成の明確な指標を定義する(継続利用率、NPSなど)
- プロトタイプは「検証結果の取得」が目的であり、完成品ではないと割り切る
10→100(成長・拡大フェーズ):スケールの壁
典型的な失敗パターン
クニエの調査では、事業グロースの失敗要因として「顧客層の広がりに応じて商品・サービスを追加できなかった」こと、さらに「顧客のニーズ・課題に合致する商品が十分に準備されていなかった」ことが挙げられています。
- ユニットエコノミクス(LTV>CAC)が成立しないまま拡大投資を行う
- 初期顧客に最適化されたプロダクトが、より広い顧客層に合わない
- 事業部門への移管が進まず、いつまでも「新規事業」のまま浮遊する
回避策
書籍では、自立的な成長を実現する3つのアプローチが示されています。
- 顧客セグメントの段階的拡大:初期セグメントからターゲットを広げ、プロダクトを進化させる
- LTVの最大化:アップセル・クロスセルを通じて顧客あたりの収益を高める
- スイッチングコストの構築:ネットワーク効果やデータ蓄積を組み込み、顧客基盤の自然維持・拡大構造を築く
新規事業をうまく進めるための実践チェックリスト
以下に、フェーズ横断で使える「新規事業推進チェックリスト」を整理します。自社の現状を点検し、不足している要素を特定する際にご活用ください。
戦略・方針の整備
- ■ 新規事業開発の目的・目線・時間軸が言語化されている
- ■ 投資ポートフォリオ(領域×リスク許容度)が設計されている
- ■ 事業評価の観点と基準(ステージゲート)が設定されている
- ■ 撤退基準が事前に合意されている
組織・人材の整備
- ■ 新規事業専用の評価制度が存在する(既存事業とは別基準)
- ■ 経営トップが新規事業への強いコミットメントを示している
- ■ 新規事業開発の経験者(社内外問わず)がチームに参画している
- ■ 失敗を学びとして共有する仕組みがある
プロセス・実行の整備
- ■ 顧客セグメントが十分に絞り込まれている
- ■ 課題の「解像度」が高く、具体的なソリューション検討につながっている
- ■ 検証活動の判断基準がチームと評価者の間で擦り合わされている
- ■ 自社の経営資源が競争優位性の源泉として設計に組み込まれている
- ■ ビジネス・テクノロジー・クリエイティブの機能が連携して動いている
外部パートナーの活用:選定時に確認すべき5つの観点
新規事業開発では、社内のリソースだけでは不足する領域を外部パートナーと連携して補完することも有効です。アビームコンサルティングの調査でも、コーポレート部門が新規事業開発を担う場合、多くのナレッジを外部から調達して成功に導いている傾向が確認されています。
ただし、パートナー選定には慎重さが求められます。以下の5つの観点で比較検討することをお勧めします。
| 観点 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 1. 実行力 | 戦略立案だけでなく、プロダクト開発・営業・マーケティングまで実行できるか |
| 2. 新規事業開発の専門性 | 既存事業のコンサルティングではなく、0→1の不確実性に対応した実績があるか |
| 3. 伴走の深度 | 報告書の納品で終わらず、仮説検証や事業化まで継続的に関与するか |
| 4. リスクの共有姿勢 | パートナー自身がリスクを取る仕組み(共同出資、レベニューシェア等)があるか |
| 5. 組織・人材面のケイパビリティ | ビジネス・テクノロジー・クリエイティブが一体となった体制を組成できるか |
たとえば、事業共創カンパニーRelicは、新規事業開発に特化した「事業プロデュース」「インキュベーションテック」「オープンイノベーション」の三位一体で、大企業からスタートアップまで5,000社以上の新規事業に伴走してきた実績を持ちます。Relicが提唱する出島共創スキーム「DUALii」のように、パートナー企業が自ら事業主体となってリスクを取りながら事業開発を推進するスキームは、大企業特有の社内調整やレピュテーションリスクの壁を乗り越える一つの選択肢です。
もちろん、自社の課題やフェーズによって最適なパートナーは異なります。上記の5つの観点を踏まえ、自社に合った連携先を見極めることが重要です。
まとめ:「うまくいかない」を構造で捉え、仕組みで乗り越える
新規事業がうまくいかない原因の多くは、個人の能力不足ではなく、組織や仕組みの構造的な課題に起因しています。
- 方針・戦略の不在 → 判断軸を定義し、経営層と現場の認識を揃える
- 組織の不適合 → 評価制度・人材配置・文化を「新規事業仕様」に整備する
- プロセスの不備 → 自社の強みを活かした独自の事業開発プロセスを体系化する
書籍『新規事業開発マネジメント』の著者であり、Relic代表の北嶋貴朗は、「ケース・バイ・ケースの特殊解が頻出する新規事業開発とはいえ、多くの企業を支援していると、共通してぶつかる壁や課題が存在する」と述べ、これらを乗り越えることで新規事業開発を着実に前へ進められると指摘しています。
「新規事業に失敗はつきものですが、しなくてもよい失敗は事前に予防して回避すること、そして避けられない必要な失敗はなるべく早く、致命傷にならないようにして、そこから得た学びを活かすこと」――この原則に立ち返ることが、新規事業を前進させる第一歩ではないでしょうか。
大企業が持つ経営資源と人材を活かし、新たな事業を生み出していく挑戦は、一企業の成長にとどまらず、日本経済全体の活力に直結するものです。本記事が、その挑戦の一助となれば幸いです。
会社概要資料をダウンロード
新規事業開発の課題を構造的に整理し、次の一歩を具体化するために、事業共創カンパニーRelicの会社概要資料をご用意しています。5,000社以上の新規事業への伴走実績から得た知見と、三位一体のソリューション体系をご確認いただけます。
この資料で分かること:
- Relicの新規事業開発プロセス「3つのフェーズ・7つの検証項目・10のプロセス」の全体像
- インキュベーションテック・事業プロデュース・オープンイノベーションの具体的なサービス内容
- 大企業との事業共創事例と、出島共創スキーム「DUALii」の仕組み
こんな方におすすめ:
- 新規事業開発の組織体制やプロセスを見直したいとお考えの責任者の方
- 戦略立案から実行まで一気通貫で伴走できるパートナーを検討されている方
- 来期の事業計画策定に向けて、外部連携の選択肢を情報収集されている方
参考文献
Web:PwC Japanグループ「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025年」、2025年
Web:アビームコンサルティング「新規事業取り組み実態調査」、2023年
Web:パーソル総合研究所「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」、2022年
Web:クニエ「新規事業の事業グロースに関する実態調査」(Biz/Zine掲載)、2024年
Web:michinaru株式会社「大企業の新規事業 立ち上げ初年度に関する実態調査(2023)」、2023年
Web:文部科学省 科学技術・学術政策研究所「全国イノベーション調査2022年調査統計報告」NISTEP REPORT No.200、2023年
Web:財務省「法人企業統計調査(令和6年度)」、2025年
Web:ダイヤモンド・オンライン「日本企業の新規事業は93%が失敗」、2024年
Web:才流「新規事業がPMFできない12の理由」、2024年
新規事業の営業戦略|フェーズ別に見る「売り方」の設計と初期顧客獲得の実践手順