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新規事業の立ち上げに必要なこと — 大企業が押さえるべき戦略・組織・実行の全体像

2026/3/6

新規事業の立ち上げに必要なことは、大きく「戦略(なぜ・何をやるか)」「組織(誰が・どう動くか)」「実行(どう形にし、収益化するか)」の三層に分かれます。以下が要点です。

【新規事業の立ち上げに必要な6つの要素】

  1. 全社ビジョンと連動した「インキュベーション戦略」の策定
  2. 既存事業から独立した投資原資・意思決定プロセスの確保
  3. 顧客課題を起点とした仮説検証(MVP・PoC)の高速サイクル
  4. 0→1、1→10、10→100の各フェーズに適した人材・チーム編成
  5. 撤退基準を含むKPI設計とステージゲート運用
  6. 経営層のコミットメントと、現場への権限委譲の両立

PwCコンサルティングの「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025」によると、8割の企業が新規事業の「成功」に至っておらず、ローンチまでこぎつけた案件でも半数以上は黒字化を達成できていないのが現実です。一方で、マッキンゼーのグローバル調査では世界のCEOの62%が新規事業の構築を自社の3大優先課題の一つに位置付けているとされ、新規事業開発は「難しいが、避けて通れない」経営テーマとなっています。

本記事では、大企業の新規事業開発責任者に向けて、立ち上げに必要な戦略・組織・実行のポイントを、フェーズごとに体系的に解説します。


なぜ今、大企業に新規事業開発が求められるのか

既存事業だけでは企業の持続的成長が困難な時代

日本では多くの産業で市場構造が成熟化しており、人口減少や可処分所得の伸び悩みが見られる中、既存事業の成長に停滞感を抱く企業が新たな柱となる事業の姿を模索しています。

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と呼ばれる現代においては、プロダクト・ライフサイクルの短命化がますます加速しています。書籍『イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント』(北嶋貴朗著)でも、「企業は新たな事業の開発や創出に取り組み、次の柱を生み出すことができなければ、継続的な成長はもちろんのこと、現状維持すらも厳しい環境に立たされている」と指摘されています。

国の政策も新規事業・イノベーション創出を後押し

日本政府は2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を閣議決定し、2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大する目標を掲げています。この計画は、人材・ネットワークの構築、資金供給の強化、オープンイノベーションの推進を3本柱としており、大企業にもベンチャー企業との協業や社内起業制度の活性化を促すものです。

こうした外部環境を踏まえると、新規事業開発は「やった方がよい」ではなく、「やらなければ競争力を維持できない」経営課題と位置づけるべきでしょう。


新規事業の成功率と失敗の構造を正しく理解する

データで見る新規事業の成功率

新規事業の「成功」の定義は調査によって異なりますが、複数の調査から見える傾向は一貫しています。

調査機関 成功の定義 成功率
PwCコンサルティング(2025年) 投資回収フェーズ到達 約2割
アビームコンサルティング(2018年) 累積損失解消 約7%
中小企業庁調査 成功と自己評価 約28%

アビームコンサルティングが2018年に実施した調査(年商200億円以上の780社を対象)によれば、取り組んだ新規事業のうち累損解消に至った割合は7%です。また、PwCコンサルティングの2025年の調査では、投資回収まで至っている新規事業案件をもつ「成功企業」は全体の2割程度という結果が出ています。

重要なのは、この数字に怯むことではなく、「失敗の構造」を理解した上で打ち手を講じることです。

新規事業が失敗する主な原因

新規事業が「成功に至っていない」理由として、「アイデアの質の問題(約21%)」「社内調整の不備(約20%)」などが上位に挙げられています。

大企業に特有の失敗パターンを整理すると、以下の3つに集約されます。

【大企業における新規事業の失敗3パターン】

  1. 「戦略不在」型:全社ビジョンとの接続がなく、何のための新規事業かが曖昧
  2. 「実行不足」型:事業構想やプランは作れるが、開発・営業・マーケティングの実行力が不足し、事業が形にならない
  3. 「組織の壁」型:既存事業の論理(決裁フロー・評価制度・リスク許容度)がそのまま適用され、スピードが出ない

多くの企業で採用されている「ステージゲート法」も、運用を誤ると大企業では「一度ゲートを通過した計画は変更不可」という硬直的な運用になりがちです。新規事業は「やってみたら違った」という発見の連続であり、柔軟な意思決定フローの設計が不可欠です。


新規事業の立ち上げに必要な7つのステップ — インキュベーション戦略の策定

新規事業の立ち上げでは、思いつきのアイデアからいきなり開発に入るのではなく、まず「インキュベーション戦略」を策定することが出発点となります。以下の7つのステップは、書籍『新規事業開発マネジメント』で体系化されたフレームワークを基に整理したものです。

STEP1 全社ビジョンを明確にする

新規事業開発は「手段」であり「目的」ではありません。まず、企業としてどこへ向かうのかを示す全社ビジョンが起点となります。

魅力的なビジョンの条件は5つあります。

条件 チェック観点
有意義性 定量的な数値だけでなく、定性的な意義や価値を示しているか
貢献性 より良い未来や社会課題の解決につながっているか
具体性・独自性 イメージしやすく、自社ならではの「らしさ」があるか
実現性 時間軸やロードマップが設計されているか
透明性・公平性 意思決定はトップダウンでも、プロセスは透明でオープンか

ビジョンの策定で最も大切なのは、従業員が「共感できるかどうか」です。合理性や客観的な妥当性よりも、経営トップの強い意志やリーダーシップが要となります。

STEP2 「なぜ今、新規事業か」の意義を見出す

将来のビジョンと自社の現状を照らし合わせ、既存事業の持続的成長では「埋められないギャップ」を明確にすることが、新規事業の意義そのものです。

ここで重要なのが「タイミング」の問題です。新規事業は本来、既存事業が順調で企業に余裕があるときに着手することが望ましいとされます。既存事業の収益基盤が揺らいでいる状態では、必要な規模の投資を行うことが難しくなるためです。

STEP3 既存事業の干渉を受けない投資原資を確保する

新規事業への投資原資は、既存事業向けのものと明確に切り分け、業績変動の影響を受けない形で確保する必要があります。既存事業の四半期業績に連動して新規事業予算が削減される構造では、中長期の仮説検証を続けることができません。

STEP4 取り組むテーマ・領域を定義する

「何でも自由にアイデアを出してほしい」という号令は、一見すると前向きに聞こえますが、制約のない発想はかえってアイデアの質を下げる傾向があります。自社のアセット(技術・顧客基盤・ブランド)を棚卸しした上で、市場・顧客と商品・ビジネスモデルの2軸で不確実性の程度を整理し、取り組む領域を絞り込むことが効果的です。

STEP5 目標の時間軸と目線を合わせる

PwCの調査では、売上高10億円以上の国内企業の多くが3年で新規事業の成否を判断していることが分かっています。事業の性質(BtoB/BtoC、ハード/ソフト、市場の成熟度)に応じて、適切な評価期間とマイルストーンを設計することが重要です。

STEP6 誰が・どのように取り組むか — アプローチの選定

新規事業のアプローチは一つではありません。

  • ボトムアップ型:社内公募制度やビジネスコンテストでアイデアを募る
  • トップダウン型:経営戦略に基づき、特定テーマで専任チームを編成する
  • オープンイノベーション型:外部のスタートアップやパートナーとの協業・投資で新事業を創出する

コーポレート部門は多くのナレッジを外部調達して新規事業を成功へ導いており、事業部門は最も重要なケイパビリティは自社のものを活用して成功へ導いているという調査結果もあり、推進主体によって最適な外部活用の度合いは異なります。

STEP7 投資ポートフォリオを組む

新規事業への投資は、一つの事業に集中するのではなく、不確実性の高さに応じて複数の領域にポートフォリオとして分散させることが原則です。中核領域に近い案件と革新的な案件のバランスを取りながら、全体として成功確率を高める設計が求められます。


フェーズ別に見る — 立ち上げ実行のチェックリスト

新規事業の開発プロセスは、「0→1(事業構想)」「1→10(事業化・検証)」「10→100(成長・拡大)」の3フェーズで論点が大きく異なります。

0→1フェーズ(事業構想):顧客課題の発見と仮説構築

【このフェーズで必要なこと】

  • ■ 顧客インタビューを通じた「一次情報」の収集(最低30件以上が目安)
  • ■ 課題の質(広さ×頻度×深さ)の評価
  • ■ アイデア創出→絞り込み→ビジネスモデル仮説の構築
  • ■ プロトタイプを活用した顧客受容性の検証
  • ■ 事業構想段階でのチェックポイント(顧客と課題、市場規模、提供価値、自社で取り組む意義、独自性)の網羅的な評価

アビームコンサルティングの調査でも「顧客課題の理解の深さが最も重要な成功要因であることが改めて認識された」とされています。重要なのは「製品が欲しいか」を聞くのではなく、「今、何に困っているか」「その解決に現在いくら払っているか」という事実を深掘りすることです。

1→10フェーズ(事業化・検証):MVPからPMFへ

【このフェーズで必要なこと】

  • ■ MVP(実用最小限の製品)の開発と市場投入
  • ■ 初期顧客の獲得と、顧客が継続利用する状態(PMF)の確認
  • ■ ユニットエコノミクス(LTV > CAC)の検証
  • ■ KPI設計と撤退基準の事前設定
  • ■ 事業性・収益性の見極めと、投資判断

このフェーズでは、戦略の正しさを検証することよりも、「仮説→実行→学習」のサイクルをいかに高速で回せるかが成否を分けます。

10→100フェーズ(成長・拡大):スケールと全社貢献

【このフェーズで必要なこと】

  • ■ 顧客セグメントの拡大とLTVの最大化
  • ■ 自立的な投資による成長(P/Lから生み出された利益による再投資)
  • ■ 全社KGI/KPIへの貢献の可視化
  • ■ 中核事業としての運営体制・組織体制の構築

成長フェーズでは、収益性を担保しながら顧客数の拡大スピードを最大化することが重要です。特定のチャネルや手法だけに依存するのではなく、複数のアプローチの総合で「LTV > CAC」の状態を維持する柔軟な投資判断が求められます。


大企業が新規事業で直面する3つの「難所」と乗り越え方

難所1:スピードが出ない — 複雑な社内調整

大企業では、新規事業に対しても既存事業と同じ決裁フローや評価制度が適用されがちです。既存事業の論理やしがらみは、新規事業のスピードを殺す最大の要因であり、新規事業チームを既存組織から物理的・制度的に切り離した「出島」のような特区として扱うことが有効とされています。

【具体的な打ち手】

  • 新規事業専用の意思決定ルートを設計する(経営直轄型)
  • 評価軸を「売上・利益」から「学習量」「仮説検証の進捗」に変更する
  • 外部との共同体制で既存組織の制約を物理的に回避する

難所2:実行人材がいない — 事業を形にする力の不足

新規事業に力を入れていない理由として「人材不足」が最も多く挙げられています。新規事業には、事業構想・プロダクト開発・マーケティング・営業と、多領域にわたるケイパビリティが必要です。しかし、既存事業で活躍する人材が新規事業でも力を発揮できるとは限りません。

【具体的な打ち手】

  • 社内でイノベーター人材を発掘・育成する制度の整備
  • 外部の事業開発パートナーとの共創による実行力の補完
  • 兼務ではなく「専任」としてアサインし、コミットメントを確保する

調査では、役員クラスの関与が新規事業の成功確率を高めることが確認されている一方、実務レベルでは現場リーダーへの権限委譲が不可欠です。

難所3:リスク許容度が低い — 失敗を許容する文化の欠如

新規事業は本質的に不確実性が高く、失敗を前提としたマネジメントが必要です。しかし、大企業では既存事業の成功体験に基づく「失敗を避ける」文化が根強く残っていることが少なくありません。

【具体的な打ち手】

  • 撤退基準をあらかじめ設定し、「撤退=失敗」ではなく「学び」と位置づける
  • 小さく・早く・安く検証する「リーンスタートアップ」の手法を社内に浸透させる
  • 経営層自らが「挑戦と失敗を評価する」メッセージを継続的に発信する

外部パートナーの選定 — 自社に合った共創相手を見極める判断軸

新規事業の推進にあたり、すべてを自社で完結させることが最善とは限りません。自社に不足するケイパビリティを補い、スピードを加速するために、外部パートナーとの連携は有効な選択肢です。

パートナー選定の5つの観点

観点 チェックポイント
新規事業の「現場感」 事業構想だけでなく、開発・検証・営業までの実行経験があるか
ワンストップの対応力 戦略策定からプロダクト開発、マーケティングまで一貫して伴走できるか
当事者意識 「コンサルタント」ではなく「共同創業者」の視点で動けるか
スピードと柔軟性 大企業の制約を理解した上で、仮説検証を高速で回す仕組みを持っているか
実績と知見の再現性 特定の成功事例だけでなく、体系化された方法論があるか

たとえば、事業共創カンパニーRelicは、新規事業開発に特化したSaaS型プラットフォーム「インキュベーションテック」、事業の課題に一気通貫で伴走する「事業プロデュース」、投資や協業を通じた「オープンイノベーション」の三位一体で、大企業からスタートアップまで5,000社以上の新規事業開発に伴走してきた実績を持ちます。大企業の制約を理解した上で、独自の「出島」共創スキームである「DUALii」をはじめとする仕組みにより、スピード感ある仮説検証を実現する点が特徴です。

もちろん、パートナーの選定は自社の課題やフェーズによって最適解が異なります。「上流の戦略策定に強みがあるパートナー」「実行・開発に強みがあるパートナー」「投資・協業に強みがあるパートナー」の違いを見極め、自社のボトルネックに合った相手を選ぶことが重要です。


新規事業立ち上げの「明日から使える」チェックリスト

最後に、本記事の内容を「すぐ使える形」に整理します。新規事業の立ち上げを検討中、または推進中の方はぜひ活用してください。

戦略・方針

  • ■ 全社ビジョンと新規事業の意義が言語化され、経営層がコミットしているか
  • ■ 既存事業と独立した投資原資・意思決定プロセスが確保されているか
  • ■ 取り組む領域・テーマに適切な制約と優先順位が設定されているか
  • ■ 目標の時間軸(3年/5年)と成功の定義が明確か

組織・人材

  • ■ 新規事業チームは「専任」でアサインされているか
  • ■ 経営層(役員クラス)のスポンサーシップが確保されているか
  • ■ 既存事業と異なる評価基準・決裁フローが設計されているか
  • ■ 不足する機能(開発・マーケティング等)を補う外部パートナーの検討は十分か

実行・検証

  • ■ 顧客課題は一次情報に基づいて定義されているか
  • ■ MVPまたはプロトタイプによる仮説検証サイクルが設計されているか
  • ■ KPIは「売上」だけでなく「学習指標」(検証数、顧客インタビュー数等)を含んでいるか
  • ■ 撤退基準があらかじめ設定されているか

まとめ — 新規事業は「知の蓄積」と「実行の積み重ね」で成功確率を高められる

新規事業の立ち上げに必要なことは、一つの「必勝法」ではなく、戦略・組織・実行それぞれの層で「しなくてもよい失敗を避け、必要な失敗からは最大限学ぶ」ための仕組みづくりです。

PwCの調査では、成功企業と挑戦企業の間で、特に「全社戦略の打ち手として位置付けた上での新規事業推進」において大きな差があることが示されています。個々のアイデアの良し悪し以上に、新規事業を推進するための「組織の力」が成否を分ける時代に入っているといえるでしょう。

書籍『新規事業開発マネジメント』で著者の北嶋貴朗氏が述べているように、「一部のスタートアップやベンチャーだけがイノベーション創出に挑むのではなく、大企業が自社ならではのビジョンや戦略を描き、経営資源を活かした独自の新規事業開発に取り組む」ことこそが、日本の国際的競争力を高める道筋です。

新規事業の立ち上げに向けた第一歩として、本記事のチェックリストを自社の現状と照らし合わせてみてください。何が足りていて、何が足りていないのか。その「現在地の把握」が、次の一手を決める最良の起点となるはずです。

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  • Relicが提唱する新規事業開発プロセス「3つのフェーズ・7つの検証項目・10のプロセス」の全体像
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こんな方におすすめ

  • 新規事業の推進体制を強化したいが、社内リソースだけでは実行力が不足している方
  • 戦略策定から開発・マーケティングまで一貫して伴走できるパートナーを探している方
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参考文献

Web:PwCコンサルティング『新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025年』、2025年

Web:アビームコンサルティング『「新規事業取り組み実態調査」から見えた新規事業の成功と失敗を分けるもの』、2023年

Web:ダイヤモンド・オンライン『日本企業の新規事業は93%が失敗、「なぜうまく行かないのか?」に対する現状打破の第一歩とは』、2024年

Web:株式会社ソフィア『大企業の新規事業は成功率向上ではなく挑戦回数と体制構築こそがカギ』、2025年

Web:内閣官房『スタートアップ育成5か年計画』、2022年

Web:文部科学省 科学技術・学術政策研究所『全国イノベーション調査2022年調査統計報告』NISTEP REPORT No.200、2023年

Web:りそなCollaborare『製造業の新規事業への取り組み、その現状と課題』(一般社団法人日本能率協会調査)、2025年