自社向けの内製システムを新規事業として外販することに、Relicとの共創でスピーディに事業化
2024/4/24
概要
主にインターネット広告事業を手掛けるセプテーニホールディングスのグループ会社・株式会社人的資産研究所では現在、RelicとともにHRテクノロジー事業に挑んでいます。科学的なAI、データ分析をベースに、一連の人事施策の品質を改善するサービスラインナップを提供する予定で、現在は「オンボーディング/OJT」の領域に特化したプロダクト「HaKaSe Onboard」を提供しています。
もともとは社内向けに開発運用していた人事システムを、同じ悩みを抱える多くの人事担当者に向けて広く提供したい、そんな想いから生まれた新規事業ではどのような課題があったのか。Relicとの共創、そして新規事業開発においてAWSを活用する良さを、株式会社人的資産研究所 代表取締役 進藤竜也氏を迎えお話を伺います。
<インタビュアー>
株式会社Relic
プロダクトイノベーション事業本部 テクノロジープラットフォームグループ エンジニア 熊田
プロダクトイノベーション事業本部 IXマネジメントグループ プロジェクト マネージャー 岡本
■お客様の課題
- 新規事業を始めることは決まったが、新規事業の経験者がいない
- 人事担当者による取り組みだったため、エンジニアやデザイナーなど開発部門が不在
- スピード感ある事業推進のためのアセットとノウハウを持っていない
■解決したこと
- 事業フェーズによって変わりゆく必要なアセットを柔軟に提供し、各フェーズに最適な体制を構築
- ビジネス、テクノロジー、クリエイティブが一体となったチーム(BTC組織)によるスピーディな事業推進
新規事業「HaKaSe」はなぜ生まれたのか?
Q.新規事業をはじめようと考えたきっかけや目的を教えてください。
進藤:
従業員数が2,000名を超えたセプテーニホールディングスでは、自社の人材育成の仕組みとして内製していたシステム、自分たちで研究開発して作ったシステムを、10年来自分たちの会社の中の人材育成の基盤として使っていました。
時代の流れもあり、人事部門のひとつの取り組み事例として、いろいろなところで事例共有する機会が多くなっていきました。ありがたいことに外部のアワードや表彰に選んでいただく機会も増えていき、同じような課題に悩み、我々の解決策を参考にしていただく企業が多いことに気付きました。そこから、私たちと同じような課題に悩む企業のみなさまに向け、システムの一部を外販しようと決めました。
いわゆる社内の新規事業という形で、内製システムの外販化を進めるプロジェクトが始まりました。
事業開発の経験者不在・開発リソースの課題に直面
Q.内製システムの外販化にあたり、どのような課題があり外部パートナーを求めていたのでしょうか?
進藤:
元々、自社の人事の施策の一環でやっていたので私も含めて、何か事業やサービスとして提供するイメージをまったく持っていませんでした。メインで取り組んでいたメンバーも人事担当の人間なのでプロダクト開発や事業開発/推進の経験がもちろん無くて知見がありませんでした。
ただ、この人事領域での経験は私たちのチームが積んできた自負もありますし、ドメイン知識としては一番持ってるのが私たちだったので、チームが新規事業の中心となって、事業としても進めていくことに決まりました。しかし事業化を目指すにあたって、足りないアセットがたくさんあり、そこは外部パートナーの協力のもと事業を進めていく選択をしました。
Q.社内にIT部門が不在というわけではなく、不足していたイメージでしょうか?
進藤:
そうですね。もう本当に人事部門に含まれる一部のチームだったので、チーム内には、エンジニアや新規事業開発経験を持つ人がいるわけではありませんでした。社内には新規事業を専業とする社員もいたので意見やアドバイスをもらうこともありましたが、リソースに限りもあり相談してばかりというわけにもいきません。
また、弊社は本業がインターネット広告のセプテーニなので、既存事業から遠い領域の事業経験を持つ人があまりいませんでした。
Q.仮に自社で新規事業の開発を進められていた場合に、どのようになったと思いますか?
進藤:
そうですね、さきほどお伝えしたように人事部門のひとつのチームが主担当となるプロジェクトですので、自社で内製化を進めた場合には、誰かしら新規事業開発に知見を持つ人材を採用して進めるとなったかなと思います。
採用するにしても、どのようなスキルを持つ方に来ていただけばよいのか、採用時にどの知見を判断軸として見ればよいのかもわからない状況でしたので、もし内製化を進めていたとしたら、プロジェクトの開始までかなり時間を要していたと思います。
業界最大規模のBTC組織による柔軟かつ幅の広い支援体制を評価しRelicをパートナーに選定
Q.パートナー選定にあたって、どのような軸や基準で探されましたか?
進藤:
ただシステムを開発するだけでなく、システム開発もできて且つ事業の立ち上げノウハウを持つパートナーを探しました。
またノウハウを持つコンサルティング企業ではなく、ともに事業をつくっていってくれるアセットを持つ伴走型の支援を希望していました。3社ほど検討させていただきましたが、Relicが初期の印象から提案内容、人柄とコミットメントに魅力を感じ決めました。新型コロナの影響で一度プロジェクトも止まってしまったのですが、形を変えて今回ご一緒できましたね。
Q.Relicは伴走の幅が広いが故に支援の形もさまざまですが、今回の事業開発はどのような開発プロセス・体制で進みましたか?
進藤:
システム開発だけでなくビジネスも、BizDevと言うんでしょうか。開発もビジネスもセットで支援いただける体制を組ませていただきました。提供されるアセットが充実している魅力だけでなく、関わるRelicの方々みなさんの人柄も信頼できる印象を受けました。
お話しするなかで、今は開発支援が多いフェーズだが、フェーズが変わったらマーケティングや他の役割も一緒に走ってもらえるなど、事業フェーズに併せて支援内容を柔軟に調整してもらえるので、事業がスピーディに進みそうだなと感じたのを覚えています。
複数のパートナーに開発・ビジネス・クリエイティブなど必要機能ごとに依頼することも可能ですが、そうするとパートナーごとの調整コストが発生してしまい、事業のスピードはどうしても落ちてしまいます。その点でRelicは1社であらゆる機能が完結するので大変助かります。
Q.実際に伴走支援が始まり、期待値とのズレはありませんでしたか?
進藤:
もうかなり長くご一緒しているので慣れてきている部分もありますが、事業が進むスピード感は当初想定していた以上でしたね。
通常、準備や調整などさまざまな都合でどうしてもスタートが遅れてしまったりしますが、Relicと取り組み、臨機応変な対応力の強さを感じました。とても助かっています。
より多くの人事担当者に利用されるプロダクトへ進化させる、今後の展望
進藤:
今回の新規事業の取り組みは、元々は自社内で価値を発揮していた施策をそのまま社外向けに形にして世に出し、反響を調査していた1~2年でした。人事の業務サイクルは1年単位で回っているものもあることから、PDCAを回しにくい特徴もあり、事業検証も1年経ってようやくリアルな反響が見えてきました。
これまでは自社と同じような規模感で、同じような悩みを抱えた人事の方に届くサービス提供をしてきましたが、ここ数年の検証結果を踏まえ、今後はより異なるタイプの企業にも広く、多くの人事担当者の方々の課題解決につながるようなプロダクトへ進化させていきたいです。
Q.より多くの人事担当者の課題解決へ向け、最近は新機能を開発されてましたよね。機能リリースしてみて反応はいかがでしたか?
進藤:
使っていただいたお客様からの反響はすごくよかったです。使われ方も企業によって様々ではありましたが、各社で利用の範囲をどんどん拡げていってもらっているので、サービスが根付いていく感触があります。
元々、プロダクトの一部機能から使い始めてもらい、徐々に良さを体感して、会社全体で使っていただけるようなプロダクトにしたいと考えていました。実際に提供してみると、思い描いていたようにじわじわと利用用途を拡げて使っていただいているケースが多いので嬉しいですね。
ただ、やはりプロダクトを使い始めるまでのハードルの高さがまだまだあります。私たちの提供するプロダクトはHRテックの領域だと後発サービスになります。ライバルがたくさんいる中で、いかに当社のプロダクトを選び、まずは使っていただけるか。プロダクトの入り口まわりの課題を直近は解決していきたいと思います。
Q.新たな課題を解決していくにあたり、具体的にどのようなことを検討されていますか?
進藤:
お客様が利用するにあたり、まずは試してみるなど、より取っつきやすく入口のハードルを下げるような、スモールな体験機会を多くするための改善を進めたいです。
現在はプロダクトを導入を検討する際に、一定の導入負荷を感じられてしまうことがあります。利用開始し、最初の価値を体験するまでに少し時間と手間がかかってしまうんです。そこの時間と手間を減らし、気軽にぱっと試して使ってみて、早くプロダクトの価値を感じてもらいたいです。
できることが10あるプロダクトだとしたら、まずはそのうちの2を手間なく体験してもらう、そんなイメージです。
Relic岡本:
進藤さんの描いているイメージも、AWSを活用しているのですぐに実現できそうですね。サーバのインフラはAWSで一緒ですが、フロントだけ別建てで開発することができるなど、AWSは自由度高くいろいろな形で提供しやすい構成になっているので、新規事業開発に向いてますよね。
新規事業開発に適したAWS
Q.新規事業開発にAWSを活用する良さはどのような点にありますか?
Relic岡本:
クラウドプラットフォームの中でAWSのシェアが最も高いですし、Relicはこれまで4,000社20,000件を超える新規事業開発に携わっていますが、そんな私たちから見てAWSが一番新規事業開発に向いているのではと感じています。
AWS は提供するサービスの種類が豊富であり網羅的です。サービスが多種多様であるからこそ、システムのインフラを構築する際に、複数のクラウドを使用することなく AWS で統一できます。これにより運用コストを下げられますし、複数のクラウドをまたぐ必要がないためセキュリティも向上します。加えて、AWS はサービス同士の連携が容易であるため、これも運用負荷の軽減に寄与します。
また、新規事業の現場では機能についてのさまざまなアイデアがプロジェクトメンバーから新しく出てきます。AWS Serverless Application Model(AWS SAM)を使うことで、その機能のみを提供する小規模なアプリケーションを作るケースもあります。
さきほどお伝えしたように、サーバのインフラは統一しつつ、その上に新たな機能を別建てで開発できるなど、事業検証を小さく速く回していく新規事業に適しています。今回求められていた「スピード感のある開発」もAWSを活用しているからこそ提供できたものです。
Relic熊田:
Relicでは新規にプロダクトを開発する際に、標準となるインフラアセットを以前はCloudFormationで、今はCDKを用いてコードで定義、管理してAWSサービス群をスピーディにプロビジョニングしております。現在「Hakase」ではフロントエンドをApmlify、バックエンドをECS、CI/CDにはCodePipelineやCodeBuildなどで実現しています。また、DBにはAuroraを使っているのですがAurora Serverless v2 が2022年に一般公開された事を受けてServerlessに移行しました。
AWSはここ数年でサーバーレス関連サービスが充実しており、その他にも新しいサービスや機能が年々増えております。それらを要所要所で取り込んでいくことで、インフラレイヤの運用負荷を下げたり、マネージドサービスを活用して新機能をより簡易に実装するなど開発者は必要とされる本質的な開発に集中できると考えております。
インタビューにご協力いただいた企業
株式会社 人的資産研究所
人的資産研究所は、「科学的な人材育成モデル」の研究を目的に、セプテーニ・ホールディングスの一組織として発足し、セプテーニグループにおける一連の人事課題を、テクノロジーを活用することで解決の道筋をつけてきました。
今後より重要性が増す「人的資産の最大化」に向け、科学とテクノロジーを駆使してその実現に貢献することを目指します。