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終わり方から挑戦を設計する──Relicが考える多様な出口戦略

2025/4/22

多産多死と再挑戦が当たり前になる社会のために

起業や新規事業など、挑戦の仕方には多くの選択肢が語られるようになりましたが、挑戦の「終え方」については、いまだに十分に語られているとは言えません。

Relicでは、創業以来「再現性・多様性・可逆性」の価値観を軸に、起業や新規事業開発に向き合ってきました。その中で私たちは、「終わり方の設計=出口戦略」が挑戦を続ける上で極めて重要であると、数多くの現場から学んできました。

特に今年3月には、新興市場における上場維持基準の厳格化により、IPOという“見えやすい出口”が狭まりつつあります。Relic代表の北嶋も「未上場企業にとって、出口の再設計が避けられない時代になった」と語っています。

本記事では、スタートアップの創業者はもちろん、企業内で新たな事業を担う“社内起業家”や事業責任者にとっても共通する「終わり方の設計=出口戦略」の重要性に焦点を当て、その多様性と構造的意義について掘り下げていきます。

いま必要なのは、「終わらせる勇気」と「終えられる仕組み」

日本では、「始めるための支援」はあっても、「終えるための支援」は、ほとんど存在していないのが実情です。起業家に向けた制度や資金調達の仕組みは少しずつ整備が進む一方で、事業をどう畳むか、撤退をどう判断するかについては、語られる機会が極めて限られています。

Relicでは、4,000社以上の事業開発を支援する中で、計画通りに進まなかったプロジェクトにも数多く出会ってきました。しかし、そうした取り組みの多くが、失敗や無駄ではなく、次の事業や新たな気づきにつながる“資産”として残っていることを実感しています。

北嶋
「“やりきること”が大切なのはもちろんです。ただ、すべてをやりきれるとは限らないからこそ、“やめどきを見極めること”も同じくらい大事なんです。でも今の日本では、それが許される空気も仕組みも圧倒的に足りていません。」

終え方を前提に挑戦することは、後ろ向きな発想ではなく、むしろ事業を健全に進めるために欠かせない視点なのです。

事業の「良質な多産多死」は、無責任でも敗北でもない

Relicが新規事業開発を支援する中で大切にしている考え方のひとつに、「良質な多産多死」という発想があります。

これは、挑戦を絞り込む前にまず数多くの種を生み出し、その中から育つものを見極め、そうでないものは潔く終わらせるという思想です。

ただし、Relicが目指すのは、単に“拙速に、たくさん試す”という意味での多産多死ではありません。

Relicが考える「良質な多産多死」とは、一つひとつの挑戦に事業責任者が本気で向き合い、成功を目指して全力で取り組む中で、必要であれば撤退の判断も下す。

そして、その経験を通じて人や組織が成長し、終了した事業に投入していたリソースや投資を、次の挑戦へと適切に再配分・再投資していく。こうした“挑戦の循環”を設計できてこそ、多産多死は意味を持つのです。

この考え方が成立するには、事業責任者が一定の裁量と責任を持ち、やりきった上での撤退が正当に評価される文化が不可欠です。ただ「失敗してもいい」という寛容さだけでは、本当の意味での学びや次につながる挑戦は生まれません。Relicでは、実質的に意思決定と責任を持つ立場で挑んだ人が得る“修羅場経験”こそが、新たな挑戦の質を高めると考えています。それが単なる多産多死と、良質な多産多死の違いだと考えます。

北嶋
「多産多死が成立するためには、事業責任を持ってやりきったうえでの撤退が正当に評価される文化と、そこで得た経験を次に活かせる機会が用意されていることが不可欠です。それがなければ、“多産”だけが残って疲弊してしまいます。」

多産多死のサイクルを健全に回すためには、撤退した事業にかけていたリソースの再投資も重要です。事業を終了することは、そのプロジェクトにかかわっていた人材・時間・ノウハウを“解放”することでもあります。それらを適切に次の挑戦へと振り向けることで、組織全体の挑戦効率が格段に高まります。

また、Relicでは、撤退を経験した人材が持つ実践知や意思決定力も、イノベーションキャピタル(※)を構成する重要な要素のひとつであると考えています。イノベーションキャピタルとは、人材だけでなく、知識、技術、ネットワーク、社会関係資本などを含む、挑戦の成果や蓄積そのものです。挑戦と撤退を通じて得られた人的資本は、その中でも特に次の事業や挑戦の質を高めるための土台となります。

良質な多産多死とは、単に「数を打つこと」ではなく、「やりきる覚悟」と「終わらせ方」、そして「次につなぐ仕組み」まで含めて設計された、挑戦の“持続可能な循環”なのです。

※イノベーションキャピタル:Relicが提唱するイノベーションに資する知的/人的/技術/社会関係資本等の総称

出口なき挑戦は、挑戦を殺す

日本ではいまだに「成功=IPO」といった固定観念が根強く残っています。資本政策や支援制度の多くも、スケーラブルな成長を前提に設計されています。

しかしその一方で、上場基準の厳格化や資本市場の変化により、「IPOに届かない企業」は年々増えており、そうした企業が「では、どう出口を描くか」が曖昧なまま取り残されているのが現状です。

「上場できなければ価値がない。そんな空気がある限り、起業家は無理に事業を引っ張り続けます。だからこそ、“納得して終えられる出口”のデザインが必要です。」と北嶋は言います。

Relicでは、出口戦略はIPOだけではなく、今後より広く根付かせていくべき手段としてM&Aも重要な選択肢のひとつであると捉えています。まだ十分に浸透しているとは言えませんが、起業家にとって“出口”が複数ある状態こそが、本質的な挑戦のしやすさにつながると考えています。

実際には、M&Aに限らず、一定の役割を果たした事業を静かに終了させる「計画的撤退」、採算は取れていないが社会的意義がある事業や、利益を産んでいるが自社には適さない事業の「共創パートナーへの譲渡」、大企業や他社との合弁・吸収による「スピンイン」や「スピンアウト」など、挑戦者にとって意味のある“出口”は他にも数多く存在します。

こうした多様な出口をあらかじめ視野に入れたうえで挑戦できる環境があれば、起業家はより柔軟かつ本質的にチャレンジできるようになります。

Relicは、こうした“終わり方の選択肢”を可視化し、事業の価値を“スケールの有無”だけで測らない挑戦文化を育てていきたいと考えています。

挑戦には、選べる“終わり方”が必要だ

Relicでは、これまで数多くのプロジェクトにおいて、さまざまな終わり方を見てきました。

社内で生まれた新規事業が、一定の成果を経て独立し、自走型のスタートアップとなったケース。大手企業との協業の中で、新たな合弁事業に発展したケース。あるいは、「この方向性ではない」と判断し、早期に撤退して次に進んだケース。

一方で、すでに成長の見込みが薄れているにもかかわらず、明確な判断がされないまま“続いてしまっている”事業──いわゆる「リビングデッド」状態に陥っているケースもあります。

これは、挑戦がうまくいかなかったというよりも、「終わらせ方がわからなかった」ことが要因となっている場合が少なくありません。Relicでは、こうした事業に対しても、「なぜ今やめるべきか」「そのあとどうつなげるか」といった設計を行い、事業と人が再び動き出せるよう伴走しています。

取り組みの中には、直接的な採算にはつながらなかったとしても、そこから得られた知見や成果物を社内外に共有することで、他の挑戦や事業に活かされる形で蓄積されていくこともあります。また、Relic独自の「可逆性」を支える仕組みを活用し、初回の挑戦で失敗しても、再び別のかたちで挑戦を続けている起業家も少なくありません。

▼「可逆性」を支える仕組みについては下記の記事で紹介しています。
https://relic.co.jp/note/58955/

このように、出口には無数のかたちがあり、正解はひとつではありません。むしろ、納得できる終わり方を用意しておくことで、挑戦はより自由に、しなやかに前へと進めるようになります。

出口の設計が、次の挑戦を可能にする

Relicでは、「出口戦略」は挑戦の“終わり”ではなく、“再現性の設計”だと考えています。どうやって始めるかと同じくらい、「どう終えるか」を設計することで、その挑戦ははじめて構造的なものになります。

「終えられる自由」がなければ、人は挑戦を始めづらくなります。これは心理的なブレーキであると同時に、制度設計の欠如でもあります。

北嶋
「挑戦の自由を守るには、“終えられる自由”が必要です。終わり方を設計できる社会こそ、健全な挑戦文化が育つ土壌だと思っています。」

出口戦略があることで、失敗は回避すべきものではなく、「想定のひとつ」になります。そしてそれが、次の挑戦への扉を開くのです。

終わることを恐れず、何度でも挑戦できる社会へ

Relicは、挑戦を一過性のイベントではなく、「文化」として根づかせることを目指しています。そのためには、始めるだけでなく、終えること、そして再び始めることが許容される環境が必要です。

多様な出口は、多様な挑戦を可能にします。

終わり方を設計できる社会へ。挑戦のあとに、もう一度挑戦できる世界へ。

Relicはこれからも、すべての挑戦者にとっての「再起可能な土壌」であり続けます。