2025.6.13

課題の当事者として立ち上がる―第2回「日本新規事業大賞」表彰式レポート

課題の当事者として立ち上がる―第2回「日本新規事業大賞」表彰式レポート

大企業のアセットと現場課題を掛け合わせ、社会を変える挑戦者たちが集いました。第2回を迎えた「日本新規事業大賞」では、約50社の応募から選ばれた7社の事業提案が披露され、圧倒的な熱量とともに新しい価値の創出が可視化される場となりました。本記事では、登壇者たちの情熱、各社の革新的取り組み、そして受賞の瞬間を振り返ります。

「日本新規事業大賞」とは?――企業内からの挑戦を讃える新たな舞台

「日本新規事業大賞」は、企業に所属する社員による社内起業や新規事業開発の挑戦を表彰するアワードです。第2回となる今回は、ユニッジ、ゼロワンブースター、Relic、アルファドライブ、Sansan、quantum、Sun Asteriskの7社が共催し、挑戦者同士のつながりを生み出すことを目指しました。

本イベントはスタートアップ業界における日本最大級の展示会「Startup JAPAN 2025」(2025年5月8〜9日、東京ビッグサイト)内で開催されました。昨年初開催に続き、今年は応募件数が前年の約4倍に増加。会場には立ち見も出るほどの盛況で、企業内新規事業への注目度の高さがうかがえました。

登壇企業の熱きプレゼン――社会課題に根差した事業アイデア

書類選考を通過した7社が最終プレゼンテーションに臨みました。審査は7名の審査員により、ビジネスモデルの独自性や課題解決力、所属企業との親和性など、7つの視点から総合的に評価されました。栄えある「大賞」には、キリンホールディングス発のAIによる在庫予測と置き薬モデルを組み合わせた革新的な調剤支援サービス「premedi」が選出されました。また、会場の観客投票による「オーディエンス賞」には、日本製鉄発の製造業の余剰部品をシェアするDXプラットフォーム「KAMAMESHI」が選ばれました。

受賞企業はいずれも、現場のリアルな課題に対して真摯に向き合い、単なる思いつきではなく現実を動かすための具体的なソリューションを提示した点が評価されました。企業のアセットを活かした大胆な仕組みづくり、現場での検証と試行錯誤を経た確かな手ごたえなど、そうした実行力が、大賞・オーディエンス賞の両受賞につながっています。

各社のプレゼンテーションからは、社内制度を活用した取り組み、地域のインフラを再構築する構想、IPOを視野に入れたスタートアップ的なスケール構想まで、まさに社内新規事業の裾野が広がりを見せていることが伝わってきました。多様性に富んだ事業が一堂に会した今回のアワードは、社内起業における新たな可能性を示す象徴的な場となりました。

それぞれのプレゼンテーションには、挑戦の背景や課題に向き合う原体験、未来へのビジョンが込められていました。ここからは、7社の取り組みを一つずつ紹介していきます。

『耕畜連携もみ殻事業』あおもり創生パートナーズ(及川大佑氏)

地域金融グループ発の事業として、あおもり創生パートナーズの及川氏が手がけたのは、青森県津軽地方の稲作から排出される「もみ殻」を、畜産の盛んな南部地域へと循環させる耕畜連携モデルです。農業と畜産、そして地域内の物流資源を結びつけることで、地域全体の一次産業の効率化を図っています。

特に評価されたのは、圧縮保管・輸送インフラの構築と、それを実現するための地域間調整、パートナーシップ形成の実行力です。資源の最適配置という観点から、地域課題の本質に切り込んだ着眼点と、「実際に自分が動くことで信頼関係を築いてきた」という当事者意識の高さも印象的でした。

「地域とは一蓮托生です。銀行マンのスーツを脱ぎ、現場で汗を流して初めて見えた課題がありました」。その言葉からは、従来の金融の枠を超えて、地域とともに持続可能なモデルを創ろうという覚悟が伝わってきます。

『製造業を横につなぐプラットフォーム「KAMAMESHI」』日本製鉄発(小林俊氏)

日本製鉄発として小林氏が立ち上げた「KAMAMESHI」は、製造業の現場で日々廃棄される余剰部品に着目した社内在庫管理DXと部品流通プラットフォームです。これまで垂直統合で閉じていた製造業界において、企業横断的なBtoBのマッチングを実現し、業界全体の資源循環を促す構想です。

社内制度の枠組みから企画を立ち上げるだけでなく、制度新設のために経営陣へ直談判を重ね、組織を巻き込んで仕組み化を実現したプロセスも高く評価されました。実際に、複数の大手メーカーや町工場を巻き込んだ実証実験を重ね、昨年よりサービスを開始。既に会員事業所数は135を越えており、着実にスケールへの道を歩んでいます。

「つながっていなかった製造業の“横の線”を、KAMAMESHIがつなぐことができる」。小林氏の言葉からは、ものづくりの未来を変えるという強い意志が感じられました。

『キリンのAI予測を使った薬局版・処方薬の置き薬「premedi」』キリンホールディングス発(田中吉隆氏)

キリンホールディングス発として田中氏が開発した「premedi(プリメディ)」は、薬局における在庫管理の課題と向き合い、AIによる在庫予測と独自梱包による置き薬の仕組みを組み合わせた革新的な調剤支援サービスです。薬局の在庫切れリスクを低減しながら、医薬品の過剰在庫や廃棄ロスの削減に寄与する構造を実現しました。

事業は、全国の薬局を回る中で出会った薬剤師の悩みをきっかけにスタート。「社会課題を“自分ごと”として捉えた瞬間に、アイデアが行動に変わった」と田中氏は振り返ります。物流や法規制といった医薬業界ならではのハードルを乗り越え、実証実験を重ねながら確かな手応えをつかんできました。

「これからは薬の流通にも『予測』が必要になる時代。premediはその先駆けになる存在です」。田中氏の強い思いと実行力が、2兆円ともいわれるロングテール市場の改革へと挑みます。

『廃棄物分別特化AIエンジン「Raptor VISION」』リコーグループ発(田畑登氏)

リコーグループ発として田畑氏が開発した「Raptor VISION」は、AI画像解析とX線画像処理を組み合わせ、廃棄物処理現場で危険物として懸念されるリチウム電池を瞬時に検知することを可能にしたシステムです。これにより、処理工程での火災リスクを大幅に低減し、より安全で持続可能な循環型社会の実現に貢献することを目指しています。

この技術は、もともとリコーグループが得意とする光学技術や画像認識技術を基盤にしています。既存技術を別分野に応用する柔軟な発想と、社内に蓄積されたアセットを最大限に活かす姿勢が高く評価されました。さらに、田畑氏自身が現場に足を運び、課題の本質を体感する中で生まれたプロジェクトであることも、審査員から強い共感を得ていました。

「技術を活かすも殺すも、使い方次第。リコーグループの中にすでにある資産を、社会課題解決にどう転用するか。それを考え続けて形にしたのがこのRaptor VISIONです。」という言葉からは、田畑氏の実直な想いと覚悟がにじみ出ていました。

『ANA Study Fly』ANAホールディングス(渡海朝子氏)

新型コロナウイルスの影響で、これまで活躍の場があった空港や機内での業務が一変した中、ANAホールディングスの渡海氏は、社員の眠れるスキルに注目しました。立ち上げたのが、語学やホスピタリティ、コミュニケーション能力を可視化・共有する社内プラットフォーム「ANA Study Fly」です。

社員一人ひとりが持つ多様な能力を社内外で活かすことで、新たな活躍の場を創出し、法人や自治体からも講師依頼が舞い込むなど、事業としての広がりを見せています。社員の再活躍の機会を生むとともに、ANAの価値を社外に届ける新しい仕組みとして評価されました。

「ただ待つのではなく、自ら価値を見つけて外に届けたい」。そう語る渡海氏の姿勢からは、変化をポジティブに捉え、行動に移すリーダーシップがうかがえました。

『はたらく部/HR高等学院』NTTドコモ発(山本将裕氏)

NTTドコモ発として山本氏が手がける「RePlayce(HR高等学院)」は、学校教育の課題に真正面から向き合い、子どもたちの“自立”をテーマに掲げた新しい高等教育モデルです。企業内起業という形でスタートした本プロジェクトは、学校という枠を越えて、社会とつながる探究型学習の場を提供しています。

特に注目されたのが、副業として関わる社会人講師の存在です。多様なバックグラウンドを持つ講師陣が、実社会の知見を子どもたちに届けることで、実践的かつ柔軟な学びを支援しています。運営資金を自ら調達するなど、起業家的視点も存分に活かされた設計となっています。

「学校に合わなかった過去の自分に届けたい」と語った山本氏の言葉には、教育への深い問題意識と、新しい学びの場を創る覚悟がにじんでいました。

『MetaMe』NTTドコモ(吉田直政氏)

NTTドコモが開発する独自技術を活用したメタコミュニケーションサービス「MetaMe(メタミー)」は、AIとメタバース技術を掛け合わせた、“心のインフラ”として、現代社会が直面する「孤独」や「社会的孤立」の課題に新たな解決策を提示する事業です。

誰もが気軽に訪れ、住人(NPC)との会話を通して孤立感を癒すことができるこのメタバース空間は、「リアルな人間関係に疲れたとき、安心して立ち寄れるもうひとつの居場所」として、多くのユーザーに寄り添っています。

MetaMeの特徴は、ユーザーの感情や心理状態に反応するAIとの対話機能。心の動きに寄り添いながら、心理的安全性の高い対話体験を実現し、メンタルケアやウェルビーイングの向上に寄与しています。

近年注目される「孤独対策×テクノロジー」「仮想空間でのメンタルヘルス支援」という領域において、MetaMeは社会課題の解決と先端技術の社会実装を両立した好例として注目を集めました。

新規事業が本気で社会を動かす時代へ

審査員のゼロワンブースター代表・合田氏は、「かつて新規事業は実験的・探索的な段階にとどまる傾向にあったが、今は100億円規模の事業創出を本気で目指すフェーズに進化した」と述べ、登壇企業の本気度を称賛しました。

Relic代表・北嶋氏は、「当事者意識をもって課題に挑んだことが、事業としての説得力を生んでいます。今回のファイナリスト7社の事業には、社内アセットを巧みに活用する取り組みから、IPOを視野に入れる本格的なスケールを志向するものまで多様性があり、社内新規事業の裾野が確実に広がっていると実感しました」と総評しました。

さらに、ユニッジCo-CEO土井氏は「大企業内でも事業を持続的に育てるために、互いに学び合い応援し合うコミュニティが必要です」と語り、本アワードの本質が単なる表彰にとどまらないことを強調しました。

また、大賞を受賞したキリンホールディングスの田中氏は、「社内新規事業はそもそもピッチをする機会がほとんどありません。このような賞があること自体がありがたい」と述べ、企業内起業における発表の場の貴重さを実感を込めて語りました。

おわりに

「日本新規事業大賞」は、ただのプレゼンテーションの場ではありません。そこには、企業の枠を越えて社会を動かそうとする意志がありました。登壇者たちは、現場で直面した課題に対し、自らの手で仕組みを立ち上げ、時に組織の壁を越えながら、変革を実現しようとしてきました。

その姿勢は、単なるアイデア勝負とは一線を画します。根底にあるのは「当事者としての覚悟」と「社会をより良くしたいという想い」。今回のファイナリスト7社は、そうした思いを行動に移し、企業という大きな器を活かして、より大きなインパクトを生み出そうと挑戦していました。

「この課題は、きっと誰かが見過ごせないはずだ」——そんな一人の気づきが、やがて多くの共感を呼び、新たな仕組みとなって社会に根づいていく。日本の企業内新規事業は今、確かな胎動とともに「本気の挑戦」の時代を迎えています。

来年、この場に立つのは、あなたの隣にいる挑戦者かもしれません。そしていつか、あなた自身かもしれません。

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