2024.3.6

チャレンジすること自体に価値がある。新規事業プログラム“ドコスタ”への挑戦で得たものとは?

チャレンジすること自体に価値がある。新規事業プログラム“ドコスタ”への挑戦で得たものとは?

「新規事業立ち上げは千三つ」とはよく言ったもの。つまり、1,000個の挑戦に対して、実際に世に出て成功するアイデアはたった3つほどとされています。

では、成功とされなかった「残り997」の取り組みから得られるものは何もないのでしょうか。もちろん、そんなはずはありません。新規事業立ち上げに挑戦した先人たちは、どのように挑み、何に迷い、最終的にどんな学びを得て、次なる挑戦へと向かうのか。

本記事では、「docomo STARTUP CHALLENGE(通称:ドコスタ)」において、シニア向けサービスを提案しピッチ大会まで進んだNTTコミュニケーションズ社員 元永弘行さんのチームの取り組みにフォーカスし、新規事業への挑戦から得た発見や学びについてインタビュー。

Relicから派遣されたメンターによるメンタリングによって、当初のビジネスアイデアやプレゼンがブラッシュアップされていったのか、昨年の審査過程とともに語っていただきました。

なお、本企画はNTTコミュニケーションズの社員の、社員による、社員のためだけでない社内報「Shines」とのコラボレーション記事として作成しました。

■Shinesの記事はこちら

https://www.ntt.com/shines/posts/b-t_20240306.html


会社からのスピンアウトも視野に入れた、本格的な新規事業創出プログラム

ーーまずは、docomo STARTUP CHALLENGE(通称ドコスタ)の開催概要を教えて下さい。どのような特徴をもった事業創出プログラムなのでしょうか。

斉藤:

docomo STARTUP CHALLENGE 運営事務局の斉藤です。

今回の題材である「ドコスタ」は、ドコモグループ(NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェア)3社が合同で行っているもので、ドコモグループ社員が提案するアイデアから新規事業を立ち上げよう、というものです。

一般的に、大企業の社内で開催されるビジネスコンテストといえば、本業とのシナジーやその会社が持っているアセットの活用といった部分も重視されがちですが、このドコスタにおいては、リーンスタートアップの手法を用いながら、「現在のドコモグループの事業からより遠いところ、不確実性の高い領域で新規事業を創出する」という点に重きをおいているところが大変ユニークだと思います。

また、このドコスタに参加する社員においては、業務時間の2割までの時間をこのドコスタのための事業検討や準備に割いてよいとしています。会社としてはかなりチャレンジングな規定ではありますが、それだけこのコンテストが社内で重要な位置づけであるということです。

今年は、304人のエントリーがあり、合計195ものアイデアが集まりました。

そこから、審査はもちろん、ブラッシュアップ(顧客課題の検証、ソリューション仮説検証)や新規事業創出の専門家によるメンタリングを経て、アイデアブラッシュアップ期間、プレゼンブラッシュアップ期間…と次回選考に進むチーム数を絞っていきます。

今日お話をうかがう元永さんチームは、最終的にベスト18のアイデアまで残りました。

元永:

Relicの小森さんにメンターとして参画していただきながら、2023年7月〜10月までの合計約4ヶ月の間、チームとしてこのドコスタに挑戦しました。

私たちのチームはメンター、チームメンバー同士、ともにとてもよい協力関係を築けたと思っています。

私は本業の既存業務においても昨年から新規事業に携わっていますが、本格的に新規事業の立ち上げに携わった経験はまだありません。そのため、新規事業の各種フレームワークはもちろん、「CPF(Customer Problem Fit/顧客が切実に解決したいと願っている課題か)」「PSF(Problem Solution Fit/解決策に顧客が満足し、お金を払うか)」といった新規事業立ち上げに必須とされる知識も少なく、今回のビジネスコンテストを通じて、言葉の意味を学習しながら迷いながら、悩みながら実体験として経験できたことは大きな収穫でした。


小森:

実は、ドコスタの場合、最初のアイデア選考の段階で新規事業立ち上げやスタートアップ支援を専門とする会社からメンター候補者が集められ、最初の事業アイデアを拝見するのです。

その中で、メンター候補自身が「支援したい」と思ったアイデアに参画することができますので、メンター側としても興味関心や自分の経験が活かせそうなチームのサポートに入れるという点が他社とは異なっており、メンターの目線から見ても非常にユニークな新規事業プログラムですね。

元永さんはコンテストで得た経験を部署に持ち帰り、振り返りを部内で共有、後進にもシェアをされていると伺いました。そんな姿勢はまさに社内ビジネスコンテストの理想といえるのではないかと思い、今回のインタビューをお願いしたのです。




現代日本の社会課題に着目!docomoの資産も活かす「シニア見守りサービス」

ーー元永さんが今回のドコスタで提案したアイデアについて教えて下さい。

元永:

今回エントリーしたアイデア名は『ケアウェルナビゲーター』

シニア世代の親の健康情報を、社内アセットを活用し子世代に接続するサービスを考えました。

自分自身もそんな年齢になってきたのですが、40〜50代くらいの子世代、さらにその下の孫世代は、仕事に追われていることで、どうしても親孝行に対しての優先度が下がってしまう。「親孝行をしたいと思っても、残された時間は少ない」ということに気づいてもらう、「親と子に絆を深める行動を働きかけるサービス」というコンセプトで考えました。

実は、以前に私が医療系サービスで行政プラットフォームと自社のアセットを活用するアイデアを検討した経験から、自社の強みを活かすことも考えた座組みになっています。

もちろん、シニア世代に関するサービスは他にもありますが、利用者側から利用料をいただくtoCのビジネスモデルがメインのサービスが多いです。

今回の私たちのアイデアは、顧客を「保険会社」と想定しB向けサービスとしてそれを展開することを狙いました。

小森:

これまでの新規事業立ち上げ経験から実現難易度が高いというのは認識していました。それは、シニア課題を解決する親子向けサービスというのはシニアに使っていただきやすいUIを検討したり、収益獲得を実現するために関連プレーヤーが多くなったりしがちだからです。

ただ、自分自身も地方出身で、両親とは遠距離居住の状態になっていることから課題と自分が重なりました。ちょうどこういった課題が気になり始める年齢ということもあり、元永さんたちが解決しようとしている課題そのものについても強く共感したので、メンターとして立候補しました。

先ほど、元永さんが新規事業立ち上げに必要なフレームワークや知識のお話をされていましたが、こちらから論点を投げかけ、考え方や進め方を共有すると、どんどん議論が進み、施策を進めていくのが元永さんチームの素晴らしいところです。

特に、「想定される顧客に対してヒアリングやアイデアの壁打ちが必要である」とお伝えしたあと、短期間でそれをやり切る姿はとても頼もしかったですね。

このコンテストに限らず、他社を見ていても、「インタビュー関連のサービスを使い、オンラインで1回当事者に話を聞く」だけでヒアリング完了とするチームが大勢のなか、元永さんたちは友人知人はもちろん、自身が接点を持つ保険会社の営業さん、同僚のご家族で顧客業界にお勤めの方など、「まさかそこから繋がりを見つけたか!」という個人的なリレーションまで使い倒して積極的にヒアリングをされていました。

元永:

もちろん、小森さんから市場やニーズの調査のために当事者へのインタビューが必要だと言われた当初は、全く面識のない方にアポイントを取ったりビジネスアイデアを話したりする行為に対して、心理的な壁を感じていました。ただし、当事者にとって切実な課題に対する解決策でないと、お金を支払ってでも使いたいと思っていただけない。そのためにはインタビューが必須だとは理解できました。はじめの数回を乗り越えてしまえば、最後は、抵抗感はなくなっていました。だんだん「ハイ」になってきたのかもしれません(笑)

また、この経験は本業にも活きているんですよ。これまでは本業における利用者インタビューなど考えたこともなかったのですが、本コンテストを通して「インタビュー設計」や「インタビュー実施」が抵抗なくできるようになったため、本業でもそういった働きかけを行うようになりました。これにより、社内外問わずステークホルダーの意見を吸い上げやすくなったと感じています。

斉藤:

コンテストの運営事務局という立場上、他のチームの進行も同時に見ていましたが、どうしても抵抗感があるのか、自分が明るくない分野へのヒアリング実施などは後回しになりがちです。忙しい、アポが取れない、アイデアがまだ固まっていない…など、「できない理由」を並べて、なかなか動きだせないチームが多い中、元永さんのチームはアイデアは生煮えだが、ヒアリング対象の方にも一緒に考えていただく!くらいの勢いを持って活動を続けられていた点は、本当に素晴らしいと思いました。

また、コンテストの経験が本業にも活きているというコメントは、事務局としては大変うれしいですね。

プロジェクトのスケジュール自体を自分で引く経験そのものが初めて、という若手の参加者もいましたし、2〜3年目の社員が「プロジェクトリーダー」をこの年次で経験するなどめったにありません。

そういった会社の環境ゆえ、日常業務の範囲内だけは、エンドユーザーの声を聞く姿勢を身につけることや、「とりあえずやってみる」という経験を得ることは難しいと考えており、本コンテストを通じて元永さんたちにそれをリアルに実践していただけた、というのは運営事務局としては大きな収穫だと捉えています。



ーー審査が終了し、『ケアウェルナビゲーター』はベスト18という結果となりました。審査員からのフィードバックなどを経て、いま感じることは?

元永:

結果として、私たちのチームは最終選考に進む5チームに入ることは叶いませんでした。

審査員からのフィードバックを総合すると、「子供世代向けのサービスなのか、シニア世代向けのサービスなのかのターゲットを明確に絞りきれていない」「途中でビジネスモデルをC向けからB向けにピボットした結果、B向けの顧客ベネフィットがしっかり示せず、インパクトに欠けた」という2点が弱かったと振り返っています。

小森:

先ほどもシニア課題を解決する親子向けサービスは難易度が高い、というお話をしましたが、本アイデアに限らず、現在市場で展開されているものを見渡しても、どれも「シニア世代が喜んでお金を払うサービス」になりきれていない状況ですよね。今回のサービスも、「お金を払ってまで自分の健康情報を共有する理由は」「子どもに余計な心配をかけたくない」というシニア世代の心理的なハードルをクリアしきれなかったという反省もあります。

シニア世代が心からお金を払ってでも使いたいと思って貰えるような「シニアエコノミー」のソリューションを考えないといけませんね。

斉藤:

事務局の目線から申し上げますと、コロナ禍明けの影響なのか、今年のドコスタ応募アイデアはシニア向けやフィットネス関連のものが目立ちました。

また、小森さんがおっしゃっているように

シニア課題を解決する親子向けサービスはメリットを打ち出す難易度が高いことに加え、本アイデアは「シニア世代」「子世代」、仲介企業と、登場人物がより多くなりました。その分考えることや検討することが増えますので、事業検討に充てられる期間がある程度決まっている中で検討・検証が難しかったのはあると思います。

新規事業立ち上げを得意とする専門会社から得られるもの

ーーRelicの強みや、メンターである小森が今回の挑戦で果たした役割を教えてください。

元永:

小森さんは、メンターといえど次にやるべきことを上から目線で指示したり、強い言葉で指摘したりはしませんでした。

そのうえで、ささやき声で導いてくださるというスタンスをキープしながら、時にはビシッと厳しく釘を差してくるというスタイル。

例えば、私のアイデアに対する気持ちがスライド上で空回りしてしまった際は、「スライドがポエムになっていますよ」「中身のない、耳障りのいいことを言うのではなく、提供価値を書くように」と、大幅な改定を促されたこともありましたね。

斉藤:

事務局がタッグを組むのは、本プログラムの趣旨を理解・賛同し、事業化まできちんとサポートしてくれる新規事業等を専門とする会社やメンターです。

メンターにはこれまで培った知識や経験を活かしつつ、各プロジェクトに対する真剣な伴走を期待しており、レベルの高いリクエストをしていると思います。

メンターも参加者もお互い真剣な気持ちでプログラムに向き合っていますので、実際に事業検討が動き出すとメンタリングでのディスカッションがヒートアップしたり、メンターからのダメ出しに参加者が凹んだりすることがあります。

Relicのメンターの皆さんは参加者の自走を促すサポート手法をよくご存知で、参加者のタイプに合わせた進め方を意識していらっしゃるのかなと感じます。元永さんは積極的に行動するタイプでしたので、Slack等のメッセージも頻度が高かったのですが、小森さんは毎回レスポンスも早く、ひとつひとつのメッセージに真剣に対応してくださいました。

小森:

参加者は、他ならぬドコモグループの社員の方々です。僭越ながらもともと大変優秀で、ポテンシャルは十分だと思いますので、ネットや本でも学べるような知識や情報を”教える”だけのメンタリングには全く意味がないと思っています。

また、先ほど話題に出た、新規事業開発に必要なアクションを「やらない理由」が出てきた場合に背中を押したりするのも、外部の目線も持っているメンターの役割だと考えています。

新規事業は、チャレンジすること自体に価値がある。

ーー最後に、みなさんがこのプログラムを通じて得たもの、学んだこと等を教えて下さい。

元永:

一般的に、新規事業の成功確率は非常に低く、「せんみつ(1000個のアイデアのうち、3つしか成功しない)」と言われることもあります。

ただ、自分で実際にアイデア検証をやってみて、ドコモグループの独自の強み(既存事業、社員を含めた各種リソース、社会的信用など)を活かして実践する量を増やすことができればもっと高い確率で新規事業を形にすることができるのではないかと感じています。次回、自分がドコスタにエントリーするとしたら最終ピッチまで到達したいですし、いつか自分の提案した事業で利益を出し、最終的にスピンアウトも目指したいです。

もちろん、本業でも新規事業を事業化して利益を出すことを目指します。いえ、やり切ります。

これまでの仕事でも「自分は”考えて”いる」と思っていましたが、今回このプログラムを通じて、仮説を立て、それを念頭におきながら情報を読み解くことで情報に対するアンテナが数段階研ぎ澄まされました。それぞれの情報の点が、まさに線でつながる感覚です。ですから、他の方にもぜひ新規事業立ち上げに挑戦し、私の味わった経験をしてみてほしいと思っています。

斉藤:

毎年、運営事務局として沢山のアイディアに触れることが学びとなっています。

タイミングや社会のトレンド、会社の状況も1年で大きく変わりますので、今年と同じやり方で次の年のコンテストを実施しても内容を繰り返してもうまくいかないのが、運営サイドとして難しいところですね。

事務局として、新規事業の成功確率を上げられるよう試行錯誤しながら尽力していきたいです。

小森:

私としては、自ら手をあげて参加するとはいえ、本業の他に新規事業創出に取り組むという状況で、ここまで能動的に動ける方々がいるということに正直驚いています。

特に元永さんの「やり切る力」は目を見張る物があり、まさに「足で稼ぐ」を地で行く行動量でした。次世代のみなさんからすると、新規事業やドコスタに挑戦するならば、これだけ活動しなければならないという、とてもよい見本になったのではないでしょうか。

Relicでは、他社さんのコンテストの運営サポートやメンタリングも担当していますが、始めたはいいものの、年を追うごとに応募アイデア数が減ってくるなど、継続の課題に直面するフェーズに差し掛かっている取り組みもでてきています。

ぜひ、ドコスタには「事業化はもちろん、既存事業へのいい影響が生まれている、参考とするべき社内ビジネスコンテスト」の先行事例になってほしいと思っています。


元永 弘行(写真中央)

NTTコミュニケーションズ株式会社 ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部 / OPEN HUB カタリスト

ビジネス利用に最適なレンタルサーバーを提供するメール&ウェブのプロダクト開発を経て、2010年11月より主に官公庁のお客さま向けネットワークを中心としたソリューションサービスのSE、プロジェクトマネージャーを担当。2023年4月からは、お客さまの課題をお客様と一緒に見つけ、課題解決を通した新規ビジネス創出にも取り組んでいる。
なお、OPEN HUB カタリスト ビジネスプロデューサーとしても活動中。

斉藤 久美子(写真左)

NTTコミュニケーションズ株式会社 イノベーションセンター プロデュース部門

2016年4月より社内コンテストの事務局を担当。NTTコミュニケーションズのビジネスコンテストの立ち上げから企画運営に関わる。
現在は、ドコモグループ新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」の事務局として、社員発のアイデアからの事業化を目指すインキュベーション(0→1)を支援する仕組みづくりを進めている。 また、社内コンテスト事務局と並行して2018年12月より、オープンイノベーションプログラム「ExTorch(エクストーチ)」事務局も兼務。社外との共創による新規事業創出にも取り組んでいる。

小森 拓郎(写真右)

株式会社Relic 執行役員 イノベーションキャピタルセンター長

ミスミグループ本社にて仕入先/子会社メーカーの生産革新プロジェクトに加え、国内外複数の製造業の支援や海外工場や国内新組織の立上げを実行。その後、外資系コンサルティングファームのアクセンチュアにて製造業や流通業のクライアントに対する人事・組織系のコンサルティングに従事。2018年、株式会社Relicに参画し、大企業〜スタートアップ企業のクライアント・パートナー企業における新規事業開発やオープンイノベーションの支援や人材開発等において多数の実績を築きつつ、2023年10月より、現職として知見や手法の体系化・標準化や、大企業を中心とした企業変革を手掛ける。

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