2023.12.20

GCカタパルトとは?パナソニックの新規事業開発について解説

GCカタパルトとは?パナソニックの新規事業開発について解説

パナソニック株式会社 アプライアンス社(以下パナソニック アプライアンス社)における新規事業開発プログラム「Game Changer Catapult(以下GCカタパルト)」は、未来のカデンを生み出すことを目的にパナソニック アプライアンス社によって2016年に設立されました。

これまでに、様々な料理の見た目を変化させずにやわらかい介護食に変える画期的な家電「DeliSofter(デリソフター)」や、毎日手軽におにぎりを楽しめるおにぎり製造ロボット「OniRobot(オニロボ)」といった製品を生み出してきました。

そのGCカタパルト代表を務める深田昌則(ふかた まさのり)氏に、前編では「GCカタパルトから未来のカデンが生まれる理由」について、後編では「GCカタパルトによって社内の組織や人にどのような変化や兆しが生まれているのか」について語っていただきました。ぜひ最後までご覧下さい。

(Battery編集部)
深田氏が代表として活動されているGCカタパルトですが、価値観や技術革新によりビジネスの前提が変化する中で「パナソニックとしても変わらなければならない」という課題意識があり、未来のカデンを形にするために立ちあがったと伺っています。

実際に「OniRobot(オニロボ)」といったまさに未来のカデンが生まれ始めていると思いますが、他社の新規事業プログラムにはない独自のアイデアを生み出す工夫があれば教えていただけますか?

(深田氏)
そのカタパリスト本人がやりたいということにチャレンジをさせている点です。社内ではGCカタパルトに参加して挑戦した社員をカタパリストと呼んでいます。他の企業の新規事業プログラムの場合、会社から辞令が出て参加するケースもあるかと思います。

我々は辞令を出して参加させることはせずに、興味と覚悟をもっている人だけが参加できるようにしています。そして、やりたい人がやりたいことをできるように予算もメンターもつけています。そこが明確に違います。

往々にして本人の意思ではなく異動して参加する場合は、本人の想いや挑戦したいテーマが後付けになってしまい、結果として新規事業を最後までやり抜くことができないといった弊害が出てくる可能性もあります。そのようなことが起こらないように、我々はやりたいと手を挙げた人にそのチャンスを提供しています。

(Battery編集部)
社員自らの想いや自主性を大切にしているのですね。

(深田氏)
そうですね。パッションとモチベーションが大事だとずっと言い続けています。
新規事業は非常に難しいプロセスなのでやはりパッションとモチベーションを自分で持ち続けないと乗り越えられない課題が大きいです。

そうでないと途中で止まってしまいます。だからしんどい中でやるのは給料とかではなくて、カタパリスト本人の想いです。想いをいかに強く持って自分の中で強く燃やし続けることができるのかというやり方についてもプログラムの中で教えています。

(Battery編集部)
「カタパリストが想いをいかに強く持って自分の中で”強く”燃やし続けることができるのか」それを支える上でメンターの存在がポイントになると思います。他の新規事業プログラムと比べてGCカタパルトの社内メンターの方々のエンゲージメントが強いと聞いております。メンター制度でこだわっているポイントはございますか?

(深田氏)
他社との違いは社外の会社に任せてしまうのではなく、社内にノウハウを残す工夫をした点です。新規事業のノウハウや知識、姿勢は社内の人たちがしっかり学んで定着させることが必要だと考えていました。

そのため、コンテストも審査員もメンターも全て社外に任せっきりにして最終結果だけを見て良し悪しを判断するのは非常にもったいないですよね。むしろ社内に蓄積するべきノウハウや知見なので。

もう1つは、そうは言っても想いだけでは新しい事業が生まれない中で、毎年新しいメンバーがGCカタパルトに参加しますので、様々なノウハウやアドバイスを何年も継続して伝える存在が必要だと考えたからです。

最後はコンプライアンス問題が起こらないように誰かがチェックする必要があるからです。若いチームだと経験のない人もいるので、外部との契約や社会人としての基礎が十分に身についてないケースもあります。

厳しい管理監督をやるつもりはありませんが、最低限のコンプライアンスを守れるようにすることは企業内でGCカタパルトを運営する上では大切だと考えています。制度のフォローもそうですが、メンタル面でも社内メンターが適宜チームに寄り添いサポートしています。

(Battery編集部)
ここまで社内メンターのエンゲージメントが高いケースはなかなかないですね。

(深田氏)
ありがとうございます。我々もそうですが、社内メンターたち自身が学ぶことに対して非常に貪欲です。

社外のメンターのように「新規事業アイデアを磨き上げるためのアドバイスができるようになりたい」と考える社内メンターが多いです。そのため、社外のメンターがどのような観点からカタパリストへアドバイスをしているのかを常に貪欲に学んでいます。

(Battery編集部)
社内メンターはどのような観点で選んでいるのでしょうか?

(深田氏)
他部署から参加する場合には、GCカタパルトの趣旨に賛同しているという点が一番ですね。あとはこういう取り組みに対してポジティブに携われるかどうかです。GCカタパルトでは他部門から異動してきたメンバーに対して、本人に名刺の肩書を自由に考えさせていますが、そのような際に上司から指示がないのはおかしいと感じてしまうような人は合わないですね。

またGCカタパルトは様々なイベントを運営しており、その華やかな側面しか見ていない人は非常に多いです。しかし、新規事業開発は非常に泥臭い活動なのでそれに寄り添って本当に取り組めるのかという点を見ていますね。

(Battery編集部)
GCカタパルトから未来のカデンが生まれている理由には「カタパリスト自身がパッションとモチベーションを常に持ち続けていること」「社内メンターのエンゲージメント」の2つがあり、運営事務局の方々のたゆまぬ想いと努力がそれを支えているということが非常に伝わってきました。

今後はGCカタパルトをどのような方向性に持っていきたいと考えていますか?

(深田氏)
日本のレガシー企業がもっと新しいことにチャレンジ出来るように、我々のノウハウを活用して頂ければと考えています。

日本企業がイノベーションを起こせない要因に、「大量の中堅社員層が変革に対する足枷になっている」「新規事業創造経験のある自社内での生え抜き経営者が多い」「経営幹部の多様性が少ない」の3点があると思います。

その中でも、個人的には次の課題はミドルマネジメント層の活性化にヒントがあると考えています。40代、50代になると定年までの残りの会社人生が見えてきますが、そこであえて自分から挑戦するよりも安定的に与えられた持ち場を守る役割のほうが、社内でも重宝され今後もより長く事業に貢献できると考える社員も多いと思います。

このようなミドルマネジメント層が結果として本人は意識していなくても新しいチャレンジに対し消極的になってしまっているケースが多いと思います。
そのような背景からミドルマネジメント層の活力を再び復活させることがヒントになると考えています。

私自身はカナダ勤務から帰任した後、40代後半で日本の大学院でMBAの取得に挑戦しました。30代くらいからもともと取得したいと考えていましたが、当時はMBAなんて取得してもしょうがないと言われた時代でした。勉強よりも実務経験のほうが大事だと。

しかし人生100年時代でもあり、40、50代でも年齢・性別、これまでのキャリアに関わらずチャレンジできる環境を整備する。そして、社内外が有機的につながったり、リカレント教育(※1)の機会を紹介することでミドルマネジメント層の活力を復活できるのではないかと考えています。

アメリカでもヨーロッパでも同様で、DX時代のこれからの雇用が変わると言われています。特にDX時代の到来で再教育やリカレント教育は北欧などでよく実践されています。

かつてはNokiaやEricsson等の有名な大企業で勤務していた人々にリカレント教育が浸透していく形で40代、50代になっても大学に通って学び直しをするミドルマネジメント層も増えてきているのではないか。また、起業家を多数輩出するなど着実に復活を遂げてきているのでは、と考えています。

(Battery編集部)
ミドルマネジメント層の活性化ができれば、社内で挑戦する若手を応援するようにもなり、自らがイノベーター人材となり挑戦するようになりますね。応募者の方を理解するミドルマネジメント層と理解されないミドルマネジメント層がいると思います。

理解されないミドルマネジメント層に対してどのような打ち手を打たれていたのでしょうか?それとも応募者自身で突破するように伝えていたのでしょうか?

(深田氏)
両方ですね。新規事業をやっている人が特権意識のような考えを持つことは組織にとって良いことではないと思っています。

既存事業vs新規事業という対立構造を生むのは本意ではありません。自分たちの仲間が新しいことにチャレンジしているということがポジティブに受け入れられることが必要だと思います。組織内で共感を得ることもイノベーションを起こす上では重要で、そのためには本人が努力しその姿勢を共有することも必要です。

あくまで新規事業と既存事業は両輪でその中間もグラデーション状になっていて、誰でも何らかの形で参加する可能性があると伝えています。今は自分が新規事業に挑戦していなくても今後自分が参加する可能性はありますからね。

20~30代よりも40~50代の方がイノベーションの成功確度が高い場合もあります。ビジネスのノウハウやリテラシーも有していますし、組織を動かす馬力も違います。
今後はミドルマネジメント層の再活性化にも挑戦していくことで、GCカタパルトがますますユニークで新規事業を続々と生み出せるプログラムになるか考えていくことに注力していきたいと思います。

(Battery編集部)
ありがとうございます。

引き続きGCカタパルトからどのような新規事業が生み出されていくか注目していきたいと思います。また、GCカタパルトを通じて組織や人にどのような変化が起きているのか我々としても非常に気になります。

こちらについては記事後編で詳細を語っていただきたいと考えていますので、引き続きよろしくお願いします。

(深田氏)
はい、お願いします。

※1.リカレント教育:義務教育や基礎教育を終えて労働に従事するようになってからも、個人が必要とすれば教育機関に戻って学ぶことができる教育システム

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