2023.12.20

株式会社ONE COMPATH CMO山本氏が語る「大企業子会社におけるイノベーション」とは

株式会社ONE COMPATH CMO山本氏が語る「大企業子会社におけるイノベーション」とは

世界最大規模の総合印刷会社である凸版印刷株式会社は、2019年4月、BtoC領域でのIT市場へ本格参入するために、株式会社マピオンを母体として株式会社ONE COMPATH(ワン・コンパス)を立ち上げた。

国内最大級の電子チラシサービス「Shufoo!」や地図検索サービス「Mapion」など、ユーザーの生活に密着したサービスを展開している。カラフルなひし形のロゴには「一人一人が違う、多様な仲間があつまることで、次々とイノベーションを起こしていく」という想いが込められている。

大企業子会社であるONE COMPATH社が、どのような取り組みによって、ユーザーの生活圏内でイノベーションを起こし続けているのだろうか。本記事では、同社取締役CMOの山本広樹氏へのインタビューを通して、その真相を探る。

“ワンマイル・イノベーション・カンパニー”を実現する

ONE COMPATH社 CMO山本氏の写真 (Battery編集部)
まず、山本様のキャリアをお伺いしてもよろしいでしょうか?

 (山本氏)
新卒では旅行代理店に入社、その後インターネット業界が急速に伸長していく中で、ITベンチャーに転職し、広告代理業やモバイルコンテンツの企画を行っていました。

その後、株式会社ONE COMPATHの前身である株式会社マピオンに入社、総合管理職を経たのち、業務で知り合った方々と起業をしました。数年後、縁あって再度マピオンに入社し、現在は全サービス・新規事業開発の統括をしています。

 (Battery編集部)
貴社が新規事業開発に力を入れている背景はなんでしょうか?

 (山本氏)
当社の主力事業である「Shufoo!」や「Mapion」は、それぞれ親会社や当社の前身から生まれたサービスで、株式会社ONE COMPATHとして開発したサービスではないのですね。

当社は、ユーザーの生活圏内(=ワンマイル)でイノベーションを起こし続ける企業(ワンマイル・イノベーション・カンパニー)を体現するために、自社発の新規事業開発に力を入れています。

新規事業開発のための“2つのアプローチ”

ONE COMPATH流ボトムアップ型新規事業

(Battery編集部)
貴社ではどのようにして新規事業開発をされているのでしょうか?

 (山本氏)
当社では、ボトムアップ型新規事業開発とトップダウン型新規事業開発という、大きく2つのアプローチをとっています。

ボトムアップ型新規事業開発では、新しい主力事業を作る目的はさながら、社員の皆さんにポジティブなチャレンジを繰り返してほしいという目的のもとに、“プラス・ワンマイル”という新規事業開発プロジェクトを発足し、全社的にアイデアを募集しました。

“プラス・ワンマイル”の実際の様子

新規事業開発プロジェクト“プラス・ワンマイル”の実際の様子

(Battery編集部)
社員の方々にとっての成長の機会を創るためにもボトムアップ型新規事業開発をされているのですね。プロジェクトを推進していく中で、苦労したことはありましたか?

 (山本氏)
大きく2つの課題がありました。1つ目は「エントリーが集まらない」、2つ目は「事務局のリソースが足らない」ことです。

まず1つ目の「エントリーが集まらない」に関して、これまで全3回やったうち、初回は「待っていました!」と社員の皆さんも意気込んでいて、たくさんのアイデアが集まってきました。しかし、第2回では、まさかのエントリー者ゼロ。私含め、事務局と猛省し、その原因を考えました。

主たる原因と考えられたのは、新規事業開発に取り組む社員の皆さんの不安を取り除けていなかったことでした。本業にも取り組んでおり、時間がない中で新規事業開発に取り組む不安を払拭できていなかったのです。

なので、外部のイントレプレナーを呼んで講演をしてもらったり、外部企業のワークショップを取り入れたりして、「自分たちでもできる」という自信をつけていってもらいました。その結果、第三回ではアイデアもかなり集まってきて、実際に効果を実感しています。

2つ目の「事務局のリソースが足らない」に関して、事務局は2~3人で回していたのですが、それぞれのアイデアに対して、発案の背景をヒアリングしたり、発案者が持っていないスキルのフォローをしたりしていました(例えば、発案者が企画担当者の場合、開発のスキルに関してのフォローをいれるなど)。

しかし、アイデア数が10件を超えてくると、アイデア起案者へのフォローの工数が増大し、事務局のリソースでは到底間に合わない事態が発生しました。

とはいえ、いきなり事務局のリソースを増やすことはできないので、逆に「社員の皆さんにベースアップをしてもらう」という考えに至りました。先ほど施策として申し上げた、ワークショップなどを通して、社員の皆さんに新規事業開発のスキル/ノウハウを身につけてもらいました。

ONE COMPATH流トップダウン型新規事業

(Battery編集部)
2つ目のアプローチであるトップダウン型アプローチはどのようになされているのでしょうか?

(山本氏)
経営陣を中心に、新サービスの開発を進めています。

第一弾として、家事代行比較サービス「カジドレ」(https://www.kajidore.com/)をローンチしました。「カジドレ」は、ユーザーの居住エリアごとに家事代行サービスやハウスクリーニングなどの店舗を見つけられ、企業横断型で比較できるwebサービスです。

カジトレのサービスイメージこのサービスが生まれた背景としては、そもそも私自身が、家事代行市場に興味がありました。共働き世代が増え、性別関係なしに家事に時間を充てられる時間が減ってきていることに課題を感じていました。ちょうどその時、「家事代行市場に挑戦してみない?」と、代表の早川と渋谷の焼肉屋さんで話し、意気投合しました(笑)。家事代行市場はまだまだアナログな市場なので、テクノロジーに強みのある当社が参入することに大きな意義を感じています。

新規事業参入の“決め手”

(Battery編集部)
貴社が新規事業に参入する際に、大事にしている決め手はありますでしょうか?

(山本氏)
大きく4つあります。

1つ目は、ユーザーの暮らしに新しい文化を創る、つまりはビジョンである”ワンマイル・イノベーション・カンパニー”を体現できていること。

2つ目は、参入する市場が、これから社会問題として顕在化していくこと。

3つ目は、その市場が成長市場になりつつあること。1つ目の内的要因と、2つ目と3つ目の外的要因が合致するところが大きな軸になります。

そして4つ目である、アイデア発起人が強烈なバックグラウンドをもとに想いをもって新規事業開発に取り組めるかが大きな決め手です。強い想いで困難を乗り切ることが、事業を成功に導きます。

大企業子会社における新規事業開発

 (Battery編集部)
大企業子会社という立ち位置での新規事業開発において、有利な点や、逆に大変な点はどんなことがありますでしょうか?

(山本氏)
有利な点としては、親会社の資本力が大きく、新規事業に使えるお金が潤沢なことや、全国数万人からなる営業の方々の力を活用できることが挙げられます。また、親会社の凸版印刷社より、チャレンジを許されている点で、社員が安心して新規事業開発に取り組める土壌があることは大事な点です。

逆に大変な点としては、グループ会社とのシナジーを考えながら新規事業の設計をしなければならない点です。トッパングループとして事業のインパクトを最大化するためにシナジーは必要ですが、事業をグロースさせるためにはスピードも必要です。両者のバランスを取りながら新規事業を推進することが重要になってきます。

読者に向けて一言

 (Battery編集部)
ここまで貴社の新規事業に関してさまざまな視点からお伺いしました。最後に、この記事をご覧の読者に向けて一言いただければと思います。

(山本氏)
良い事業を世の中に発信していくために、どのような訓練が必要だと思いますか?

私は、先ほどもお話した「強烈なバックグラウンドを持って事業に取り組めるか」「日常生活を思考で埋め尽くす」ことが大事だと考えております。後者に関して、具体的には「日常の疑問をメモする」ということです。実は私も昔、新規事業を生みたいと思っていたものの、どうしていいか分からない時期がありました。モヤモヤしているうちに、とある方に「もっといろんなことに興味を持ってみたら」と言われ、そこから目に入るあらゆる物事に対して疑問を持ってみるようになりました。具体的にいうと、「なぜあのトラックのロゴはあの配色なのか」といったようなことです。その疑問をメモすることによって、当たり前を疑う力が身につき、それが新規事業を考える際の糧になるはずです。

インタビューを終えて

今回のインタビューでは、大企業子会社という特殊な立ち位置における新規事業開発の現状を、ONE COMPATH社 CMOである山本氏に語っていただきました。同じ境遇にある新規事業開発担当者の方々には大変参考になるかと思います。また、山本氏が実践している「日々の疑問をメモし、当たり前を疑う力を身に着ける」というのは、全てのビジネスパーソンにとって有益な示唆となるでしょう。「カジドレ」など、生活に寄り添ったイノベーションを起こし続けるONE COMPATH社の動向を今後も注視していきたいです。

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