“社内起業家”が集結。「第3回 日本新規事業大賞」レポート──大賞はソフトバンク発「AGENTIC STAR」が受賞
2026年4月15日、幕張メッセで開催された日本最大級のスタートアップ展示会「Startup JAPAN 2026」の会場内で、「第3回 日本新規事業大賞」の最終審査会と結果発表が行われました。
「日本新規事業大賞」は、スタートアップではなく事業会社の中から生まれる新規事業に光を当て、社内起業家を表彰するアワードです。株式会社アルファドライブ、Sansan株式会社、SBイノベンチャー株式会社、株式会社ゼロワンブースター、株式会社Relic、株式会社ユニッジの6社が共催し、今回で3回目の開催となりました。
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応募数・熱量ともに過去最高。エコシステムとして進化する第3回
今回から新たに応募要件として動画審査が導入されました。事前提出されたピッチ動画は何十点にも上り、応募数は過去最高水準となりました。実行委員会は「選考に本当に苦労するほどレベルが高くなっている」と振り返るほどです。
また、第1回大賞受賞企業のMOONRAKERSが今年はパートナーとして運営側に参画、前回惜しくも受賞を逃した企業が再挑戦で登壇するなど、回を重ねるごとに「挑戦と還元の循環」が生まれています。単なる表彰の場にとどまらず、企業内起業家たちがつながり、互いに高め合うエコシステムとして成熟しつつあることが、第3回の大きな特徴です。
このアワードが目指すのは、スタートアップだけではなく、企業の中から新たな価値を生み出す人たちにも光を当てることです。その原点は変わらず、熱量高く今年のステージに立った8社を紹介します。

書類・動画審査を突破した8社が、5分間に全てを懸ける
書類審査と動画審査を経て選ばれたファイナリスト8社が、5分間のピッチと質疑応答に臨みました。審査員は以下の6名です。
- 麻生 要一氏(株式会社アルファドライブ 代表取締役社長兼CEO)
- 池田 陽子氏(経済産業省 経済産業政策局 競争環境整備室長)
- 北嶋 貴朗氏(株式会社Relic 代表取締役CEO/Founder)
- 合田 ジョージ氏(株式会社ゼロワンブースター 代表取締役)
- 佐橋 宏隆氏(SBイノベンチャー株式会社 取締役/STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEO)
- 土成 実穂氏(株式会社ユニッジ 代表取締役Co-CEO)
【シード部門】自社の強みを武器に、課題の核心へ挑む4社
日清医療食品株式会社|保育園の帰り道に”おかえり夕食”を

1972年創業、全国約5,400か所に毎日130万食を届ける給食受託のリーディングカンパニー・日清医療食品。新規事業担当の髙木 麻衣氏が提案したのは、保育園のお迎え時に夕食を持ち帰れるサービスです。
「子供たちが普段食べている給食をベースにした夕食を提供します。スーパーに寄る必要も、メニューを考える必要もなく、家では温めるだけ。実証では販売日の80%を利用する家庭もあり、生活インフラとして組み込まれている状態です。」
既存の配送網・信頼関係・食の知見を活用できる点が競合との差別化になると訴え、審査員からは「最初のプレゼンから泣きかけた」との声も上がりました。
株式会社フジ・ネクステラ・ラボ|AIが質疑応答を”先読み”するリアルタイム支援

IR・広報担当者が最前線でさらされる「質疑応答リスク」に着目したのが、フジ・ネクステラ・ラボの玉岩氏です。発言のブレや沈黙を防ぐため、AIがリアルタイムで質問を先読みし、回答準備をバックヤードと共に整える「Live-QA」を開発しました。
「私たちはメディアグループ企業の一員として、生放送という絶対に失敗できない現場のノウハウを持っています。答えを作るAIではなく、説明の質と一貫性を支えるAIです。」
日本の上場企業約4,000社・大企業約1万2,000社すべてが市場対象になるとし、2026年2月から販売を開始しています。
アサヒグループジャパン株式会社|世界初*、酵母由来の”ライクミルク”でフードダイバーシティを

ビールでおなじみアサヒグループから生まれたのが、牛乳でも豆乳・アーモンドミルクでもない酵母から生まれた「ライクミルク」です。乳アレルギーを持つ子供との出会いをきっかけに開発を決意した畠氏は、酵母の発酵技術と粉ミルクの技術を掛け合わせることで実現しました。
「アレルギーに悩む子供だけでなく、乳糖不耐症の方にも、誰もが同じ食卓を囲める未来を作りたい。牛乳※と同程度のタンパク質・カルシウムを含みながらコレステロール0で、癖なくごくごく飲めます。」
クラウドファンディングで目標の約700%を達成し、スーパーでの試験販売でも植物性カテゴリーでの実績を残しています。
*主原料が酵母のミルク製品(液体)として、先行技術調査およびMintel社データベース(GNPD)を用いた自社調べ(2025年9月)
※普通牛乳(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)
株式会社日立製作所|金融犯罪に「業界の壁」を越えた共同AMLで挑む

「守る側が孤立している限り、人は守れない」。警察一家に育ち、地域防犯活動にも携わってきた岸 功氏が日立製作所内で推進するのが、銀行・暗号資産事業者が横断して犯罪シグナルを共有するAML(アンチマネーロンダリング)の共同インフラです。
年間数百万件に及ぶ個別調査のコストと人材不足を、共同センターによる情報共有・AIモニタリングで解決します。6省庁と連携し、金融庁支援のもと銀行・暗号資産事業者16社との実証実験実証実験を通じて、共同化による業務効率化や検知高度化の可能性を検証しており、今後の社会実装に向けた検討を進めています。
【グロース部門】実績を携え、産業の構造を変えにきた4社
ソフトバンク株式会社|AIエージェントで”産業革命”を──次世代自律型AIエージェントプラットフォーム「AGENTIC STAR」

「垂直統合型で全領域に挑む。我々は産業革命を本気でやろうとしている。日本から世界で500億円規模の事業を作っていきます。」
そう語ったのは上原 郁磨氏です。SBテクノロジーからソフトバンクに移り、AIの戦略立案を担うミッションを受けて立ち上げたのが、次世代の自律型AIエージェントプラットフォーム「AGENTIC STAR」です。
世界の多くのAIツールが個人の生産性向上を中心とするなか、「組織・職種ごとの長期記憶管理」に着目し、全産業領域を対象に業務の自動化・高度化を実現しています。グローバルの大手企業との提携も進み、3か月で3億円を受注、パイプラインには約30億円が積み上がっているといいます。
GéNiE株式会社(アコム株式会社発)|すべての企業が”金融サービス”を始められる日本初のプラットフォーム

三菱UFJフィナンシャルグループのアコムから生まれたGéNiEは、日本初のエンベデッド・ファイナンス・トレーディングサービス「マネーのランプ」を展開しています。
「消費者金融の利用に9割の人が抵抗感を持つ。審査通過率も3割に過ぎない。しかし、データを細かく知ることができれば、もっと多くの人の夢を救えるはずです」(齊藤 雄一郎氏)
API接続だけで企業が金融サービスを提供できる仕組みを構築し、1年半で提携社数29社・累計申込者数40万人・累計貸出額100億円を突破しました。
ソフトバンク株式会社発 Gen-AX株式会社|AIがコールセンターを変える──24時間365日対応の対話AI

「コールセンター業界の約2兆円市場をAIで変革し、日本発の新たな輸出産業にする」と語るのはGen-AX株式会社の磯氏です。
MicrosoftやLINEでAIプロジェクトを手がけてきたメンバーが集い、現場で安全に使えるクオリティの対話AIを開発しました。すでに住友カードや、発表当日の9時から本番稼働を開始したJALカードなど大手金融機関への導入が進んでいます。日本の丁寧なおもてなし品質の対話AIを武器に、東アジア圏からのグローバル展開も視野に入れています。
株式会社Carjany(東京海上日動発)|ショッピングモールで”セールスなし”の試乗体験を

東京海上日動のスピンアウトベンチャーとして創業した渡邊 裕太氏のCarjanyは、自動車ディーラーの試乗機会をショッピングモールで提供する新しいクルマ選びのサービスです。
「ディーラーに行くと勧められるかもしれない——そのハードルがクルマ選びの大きな障壁です。第三者の立場だからこそ、ユーザーとディーラー双方の課題を同時に解決できます。」
イオンモール160か所のうちすでに40か所で展開し、今年度の売上は約40,000万円を見込んでいます。さらに、最先端の安全機能を持つ車への乗り換えを促進することで、交通事故削減という社会課題にも挑んでいます。
「動画公開企画賞」受賞者のピッチ
最終審査には残らなかったものの、事前の動画公開投票で多くの支持を集めた2社が特別登壇しました。
NTTテクノクロス株式会社(赤野間 信行氏)は、牛が起き上がれなくなる「起立困難」を画像解析AI とサポートセンターが24時間体制で見守る 畜産支援サービス「BUJIDAS(ブジダス)」 を披露しました。10年の業界知見をもとに課題と向き合い、着想から1年でサービスを立ち上げています。
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ(畑中 克彦氏)は、「結婚式をしない人のための新しい祝祭」を提案しました。業界のリーディングカンパニーが自ら従来の結婚式の構造を変える「UNWEDDING」は、主役にならない結婚式をコンセプトに昨年10月に大阪中之島に会場をオープンし、順調なスタートを切っています。
受賞結果一覧
| 賞 | 受賞者・企業 |
| 大賞 | ソフトバンク株式会社 上原 郁磨氏(AGENTIC STAR) |
| グロース部門グランプリ | ソフトバンク株式会社 上原 郁磨氏 |
| シード部門グランプリ | 株式会社日立製作所 岸 功氏 |
| オーディエンス賞 | 株式会社Carjany 渡邊 裕太氏 |
| 審査員特別賞(麻生 要一氏 選出) | アサヒグループジャパン株式会社 畠 徳望博氏 |
| 審査員特別賞(合田 ジョージ氏 選出) | 株式会社フジ・ネクステラ・ラボ 玉岩 秀一氏 |
| 審査員特別賞(北嶋 貴朗氏 選出) | Gen-AX株式会社 砂金 信一郎氏 |
| 審査員特別賞(佐橋 宏隆氏 選出) | GeNiE株式会社 齊藤 雄一郎氏 |
| 審査員特別賞(土成 実穂氏 選出) | 日清医療食品株式会社 髙木 麻衣氏 |
| パートナー賞(JSOL) | アサヒグループジャパン株式会社 畠 徳望博氏 |
| パートナー賞(社会デザイン・ビジネスラボ) | 日清医療食品株式会社 髙木 麻衣氏 |
| パートナー賞(TECHFUND) | 株式会社日立製作所 岸 功氏 |
| パートナー賞(YOUTRUST) | ソフトバンク株式会社 上原 郁磨氏 |
| パートナー賞(Creww) | 株式会社Carjany 渡邊 裕太氏 |
| パートナー賞(MOONRAKERS) | ソフトバンク株式会社 上原 郁磨氏 |
「逆風の中で続けてこられた仲間に」──大賞・上原 郁磨氏の言葉

大賞の発表を受けた上原氏は、受賞の喜びよりも先に、支えてくれた人々への感謝を口にしました。
「この賞を取ることよりも、社内で大勢が支えてくれた人たちに、そして新しい事業を立ち上げる中で逆風もあったなか続けてこられた仲間に、ここで表現できたことが嬉しい。本当にありがとうございます。」
新規事業の現場には、外からは見えない苦労が伴います。その道のりを共にした仲間への言葉が、会場に温かい空気をもたらしました。
「今挑戦している皆さんが、社会を変える主人公」──審査員総評
審査員を代表してコメントした池田氏は、第3回を迎えた本アワードがエコシステムとして着実に成熟してきていると評価しました。

「第三回 日本新規事業大賞は、参加者の広がりに加え、再挑戦や第一回大賞受賞企業のパートナー参画といった循環が生まれ、エコシステムとして確立してきていることを実感しました。」
今回の登壇事業が政府の重点施策とも深く連動していることにも触れ、企業内の挑戦者たちに積極的な活用を呼びかけました。
「今政権が掲げる17の戦略投資分野はAI、デジタル、フードテックなど幅広く、今日の発表もかなり網羅されていますので、使える支援策はぜひ使い倒していただければ幸いです。」
そして、本アワードの本質的な価値についてこう語りました。
「日本新規事業大賞の最大の魅力は『起案者ファースト』で、原点にある個人のエネルギー、そこから本来出会うことのなかった社内外の多様な連携が生まれるストーリーを肌身で感じられることです。大企業の存在感が大きい日本において、今挑戦している皆さまお一人おひとりが、社会を変える主人公です。」
企業内新規事業が、日本を変える
閉会の挨拶では、このアワードに込めた思いが改めて語られました。
「この国は歴史ある企業が多い。それを受け入れた上で、スタートアップだけでなく企業の中にいる人たちが変わっていくことこそが、日本が元気になることだと信じています。今日話してくれた方々を、皆さんで引き続き応援してください。」
登壇者一人ひとりの挑戦を会場全体で讃え、第3回日本新規事業大賞は幕を閉じました。

第3回を終え、日本新規事業大賞はエコシステムとして着実に根を張り始めています。登壇8社に共通していたのは、自社ならではのアセットと現場で得た課題意識を武器に、既存の産業構造そのものを変えようとする気概でした。スタートアップのみならず、大企業の中の「もう一つのイノベーション」が日本の未来を動かす力になる——この大会はその可能性を毎年、確実に証明し続けています。
「第3回 日本新規事業大賞」特設サイト:https://sj.innovationaward.jp/
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