2023.12.26

主役はスタートアップ。”仲人役”に徹する『富士通アクセラレーター』の心意気を探る。

主役はスタートアップ。”仲人役”に徹する『富士通アクセラレーター』の心意気を探る。

日本を代表するDX企業である「富士通」。その取組の一環としてアクセラレータープログラムがあるのをご存知でしょうか。2015年からスタートし、スタートアップと数々の協業実績を生み出してきた「FUJITSU ACCELERATOR」のみなさんに、プログラムの狙いや企業内でのアクセラレーター担当者の立ち回り方のポイント、プログラム成功の秘訣を伺いました。スタートアップ界隈でも評判は上々、というプログラムの中身を紐解きます。

今回お話を伺った方々

>>2020年の取材記事はこちら


Strategic Growth & Investments室 事業創造部 FUJITSU ACCELERATOR事務局
左から マネージャー松尾 圭祐様、菅 かほり様、ディレクター浮田 博文様、三原 雄一様、春日井 淳史様

―――まずは、FUJITSU ACCELERATORの特徴やプログラム内容をお話いただけますか。

(浮田)

富士通としてはスタートアップ協業や出資はずいぶん前から行っており、コーポレートベンチャーキャピタルとしては2006年にグローバル・イノベーション・ファンド1号が設立されました。協業についても長年や手掛けていましたが、専任組織が2015年に創設され、現在の『FUJITSU ACCELERATOR』がスタートしました。

今日時点では、私たちFUJITSU ACCELERATOR事務局メンバーは、Strategic Growth & Investments室 事業創造部に所属しています。

専門性を高める目的で、「M&A部門」や「ベンチャー投資部門」は外部の専門家登用も盛んですが、私たち富士通アクセラレーターは、比較的富士通歴が長いメンバーが多いです。社内とのシナジーを重視して案件を選定していることもあり、事務局には富士通の社内事情に精通していることが求められる、という背景もあります。

本プログラムもすでに7年目となりました。歴史が長い分、ありとあらゆる経験・失敗を重ねてきておりますので、それは強みだと思っています。

―――FUJITSU ACCELERATORは、2022年4月にリニューアルされたと伺っています。具体的にどのようなリニューアルだったか、背景なども含めて伺えますか。

(浮田)

1年をワンタームとしたバッチ形式の公募型から、随時に協業を作ってくという形式に変更したことが最大の変更点です。

まず「公募」について。事務局の体制が成熟したこともあり、事業部のニーズをしっかりとヒアリング・把握したうえで、そこに最適なソリューションを持つスタートアップ企業を探し、富士通側からプログラム参加のお声掛けをする、というケースも増えてきました。

「バッチ形式」については、我々事務局や富士通全体からすると今後の見通しが立ちやすい反面、スタートアップの事業リズムとは相容れない部分もあった。応募企業側からすると1度応募を見送ったら次回は1年というのは期間が長すぎるでしょうし、いつでもエントリーできるほうがチャレンジのハードルも低いのではないでしょうか。

事業部としてもいますぐ新しい技術を取り入れたい、というタイミングに有望なスタートアップとスピーディーに出会えるのは魅力的です。

ただ、形を変えたことでスピード感が失われる様なことがないように、リリース目標時期から個別にタイムラインを引き、ゴールとなる期日をよりシビアに意識して臨む姿勢は必要になりますね。

―――前述のリニューアルによって、社内外でどのような反響がありましたか。

(松尾)

従来の形式は、富士通側の「事業化の精度を高めたい」という意向が強く反映され、一種の”ウォーターフォールっぽさ”があったかもしれません。それが、よりスタートアップファーストに、いつでも話がスタートできる“アジャイルな形”に変わったと思っています。スタートアップの皆さんからしても、より門戸が広く、参加していただきやすくなったのではないでしょうか。実際、スタートアップ企業から「気軽にお話できる機会が増えてありがたい」というお声をいただいたております。

(春日井)

私たち事務局が力を入れているマーケティングや広報活動が実を結び、富士通社内(事業部)からの問い合わせも増えましたね!これまで、事業部は待ちの姿勢になりがちでしたが、積極的に「こういった技術をもったスタートアップはないか?」と連絡してきてくれるようになりました。

たとえば、弊社の顧客からメタバースに関する相談を受けたときなど、富士通社内にはまだ専門家や部署はありません。「FUJITSU ACCELERATOR事務局なら、そういった技術・知見のある会社さんと繋がりがあるのでは?」と想起してもらえるようになったということだと思います。

―――貴社のような大手企業では、規模が大きな会社ならではの課題もあったかと思います。プログラムを推進する上で、多くの事業部や部署を巻き込んで推進する中で、印象的なエピソードなどがあれば教えて下さい。

(春日井)

私の場合、「富士通の人間」ではなく、あくまで中立の立場を意識するようにしています。婚活でいう「仲人さん」のつもり。婚活って本当にいい例えなのですが、どんなに理想的な組み合わせの2人(スタートアップと富士通内の事業部)でも、放っておいたら話がうまく進まない、”ハプンしない”のです。双方の伴走者となり、ゴールを一緒に考えたり、打ち合わせをセットしたり。デートをお膳立てして結婚に導く、腕利きの仲人さんのような働きをするのです。

本プログラムのロゴを見てください。よく見ると「F_」という文字が浮かび上がってきます。これは「FUJITSU_スタートアップ」を表しておりさらに赤と白を反転させることで、あくまで富士通アクセラレーターは黒子の役割であり、主役は協業の主体者であるスタートアップや事業部門であるという意味が含まれています。

(松尾)

大企業ならではでいうと、後押ししてくれる役員クラスの「スポンサー」を見つけ、密に連携・動機づけをしていくこともポイントだと考えています。

実務面ではできるだけ部課長レベルに意思決定してもらえるよう差配しますが、企業のサイズが大きいとなかなかそこで決めきれない事項も出てきます。そのような場合は役員から決定事項として方針を下ろしてもらうことも。部課長と一緒に役員のところへ行くこともあれば、あえて裏で話を通すこともあり、そこの話の進め方は、事務局の腕の見せ所。

富士通は、技術者集団ということもあり、ビジネスモデルから事業をリデザインするようなことはあまり機会がないので、そこは少しでもBizDev的な知見や経験を積んだ事務局が補完できればと考えて行動しています。

(浮田)

ただ、当然我々だけでなく、富士通全体も頑張っていまして、富士通自身を変革する全社DXプロジェクト「フジトラ」を始動させるなど、自分たち自身のトランスフォーメーションについても、「これまでのプロセスをぶっ壊す」という気概をもって変革に取り組んでおり、全社的な底上げが行われつつあります。

事業部単位で協業に関するワーキンググループが開催されるなど、社外企業との協業を推進できる人材の育成に積極的になっている印象があります。実際にワーキンググループから協業につながった案件も出てきていますし、社内でもプログラム自体の注目度が上がっており、毎週のように現場から問い合わせが来るなど、社内の状況も大きく変化してきています。

―――スタートアップ企業と連携する上での課題や、それに対してどのような打ち手を実行してきたか教えてください。

(浮田)

まず、スタートアップ企業は「対等なパートナー」であるという意識をとても大切にしています。社内には従来のような「社外企業は下請け」という意識が抜けない方もときどきいらっしゃるので、私たちから厳し目に申し上げることもあります。

(春日井)

スタートアップと大企業の時間軸の違いや、キャッシュフローへの認識もスタートアップ側の事情を理解する努力が求められます。スタートアップは、いかに直近の売上を確保するかが大事です。他方、富士通はビジネスの在り方を中長期的な観点で考えないといけません。大企業の論理だけでコトを進めないように細心の注意を払い、両社の落とし所を見つける努力が必要です。

―――アクセラレータープログラムを実施しているが、なかなか成果が出ずに関係者のやる気の維持が難しい、という課題もあると思います。社内外の関係者をモチベートする方法について教えて下さい。

(松尾)

そうですね、特にスタートアップとのコラボレーションとなると、成果が出るまで時間がかかったり、労力をかけたのに実を結ばなかったりします。

本当は、このプログラムに関与する人の人事評価の方法から変えるのが理想的だと思います。ただ、この企業規模で人事制度を変更するのはなかなか難しい。

そこで、社内外への広報活動が大きな役割を果たしてきます。我々のオウンドメディアでPoCの取り組みを掲載したり、スタートアップと担当の事業部社員のインタビューを行ったり。

スタートアップ、事業部社員とのイノベーションへのチャレンジに「光を当てる」と言いますか、注目されているという実感を持っていただくことで、モチベーションを維持していただきたいと考えています。実際、オウンドメディアに掲載されたことで社内から「読んだよ」と声を掛けられることもあるようです。

(春日井)

今回のようなインタビューをお受けすることも多いため、事務局の人間が目立ってしまいがちですが、スタートアップと事業部が主役であることは絶対に忘れないようにしています。私たちが前に出過ぎていると、ディレクターの浮田からクギを刺されることもありますよ(笑)

―――それでは、これまでに実際に採択に至ったアイデアや、具体的に事業化したものを教えてください。

ーーーーーー

①AI翻訳サービス Zinrai Translation Service

商用リリースからすでに3年が経過、富士通社内実践で磨いた大企業向け文書翻訳AI。すでに日産自動車や明治大学、国際スポーツイベントにも導入されている。

②RevComm

AI搭載のIP電話、会話内容を自動記録・解析する音声解析サービス。

すでに富士通のデジタルセールス部門で導入済みであり、複数ある協業パターンのうち、「まず富士通社内でベンチャーの製品を使用する→富士通の顧客へ提供開始」の形での取り組みとなった。

③プレシジョン

富士通が既存で展開する電子カルテシステム「HOPE」を強化する目的での協業。問診票をもとに医師の診断・カルテ入力の補助を行う仕組みであり、国立病院機構名古屋医療センターにてPoC(実証実験)を実施している。多くの企業様からお問い合わせを頂いている。

*関連記事

Fujitsu Human Centric AI Zinrai(ジンライ) – 富士通のAI(人工知能)

協業事例インタビュー – 株式会社プレシジョン : 富士通

ーーーーーー

(浮田)

もちろん、企業内アクセラレータープログラムですから、富士通の既存事業とのシナジーは重視しています。

現在、富士通全体では「Fujitsu Uvance」として以下の7つを注力分野として掲げており、FUJITSU ACCELERATORでは、これらの7分野に合致する事業を採択するようにしています。たとえば先程ご説明した電子カルテのプレシジョン社との協業は、大きな意味では「Healty Living」の分野に該当しますね。

―――2015年から7年間という長い期間プログラムを運営されている中で、集まってくる事業の量や質に関しては、どのような変化がありましたか。

(松尾)

数に関しては、1〜3期はきつかったです…。時代的に、アクセラレータープログラムというもの自体も知名度が低かったし、富士通がプログラムを実施していることも知られていませんでした。

2期は20社、3期は30社と低空飛行を続けていましたが、4期目である2019年に潮目が変わり、応募が100社を超えるように。これまで丁寧にスタートアップと築いてきた信頼関係から、スタートアップ界隈のクチコミが広がったり、社内外への広報活動の成果が出始めたといえるでしょう。直近では1期(1年)あたり250社ほどがエントリーしてくれるまでに成長しました。

また、玉石混交ながら、応募企業/サービスの質についても向上していると思います。私たち事務局にもスタートアップに関する様々な情報が入ってくるようになり、有望な企業にこちらからお声掛けできる体制になったこと、特にベンチャーキャピタル(VC)界隈のエコシステムの中に入ることができたのはポジティブな影響が大きいです。VCからのご紹介案件はやはり質が高いですし、VC卒業生からの評判も、かなり参考になりますね。

(春日井)

たとえば、先程お話した「RevComm」さんは、すでに資金調達も済ませていると、はじめは弊社のプログラム参加にやや消極的だったものの、VCや他社さんからの強いおすすめがあって応募してくださいました。結果として、富士通社内での導入につながりましたから、1件1件の案件に丁寧に対応した結果発生する良いクチコミというのは本当に重要です。

※図に示された6つの協業パターンのうち、「当社(富士通)社内での利用/6.業務効率化ツールとして利用」の形で実を結んだのが「RevComm」

―――富士通の経営層とのコミュニケーションも重要になってくると思いますが、そのときに意識したポイントは。

(浮田)

これは前任者から聞いた話ですが、よい塩梅に、ステルスモードといいますか、目立ちすぎないようには注意していたようです。以前は、まだスタートアップ協業が一般的に浸透しておらず、一部、本プログラムについて推進派とは言い切れない方とは一定の距離を保ちつつというみたいで…。

(松尾)

他社さんのアクセラレートプログラムは、役員陣からのプレッシャーもあり継続していくのが難しい、という悩みも耳にします。そのような場合、プログラム自体の戦略やアクセラの制度を固めるといった「方法論」だけが先行しており、「ファクト」が不足しているというパターンが多いのではないでしょうか。小さくても構わないので、アクセラレートプログラムの実績を出していく。何かしらの成果が出た段階で、形になっているという事実をひっさげて経営層に提案に行く。「アクセラがお祭りやイベントになってしまっている」と、プログラムの継続方法などに悩んでいる事業会社の担当者様などは、ファクトを作るという意識を持たれてみてもいいのではないでしょうか。

―――最後に、今後のFUJITSU ACCELERATORの展望や、目標を教えてください。

(浮田)

いまは国内がメインですが、ネクストステップとしてはグローバル展開を目指したいですね。海外のスタートアップの支援であったり、日本のスタートアップを世界展開する支援などができればと考えています。

また、富士通の本業であるコンピュータ分野、つまりはスパコンやAI、クラウド技術などこれまでスタートアップが使用するのが難しかった技術的環境を活用するなど、「Computing as a Servise」に関わる、”富士通らしい”展開ができれば嬉しいです。

(松尾)

今後は、個々の案件の支援に加えて、アクセラレーターのスケールまでのメソッド確立も目標にしていきたいです。少なくとも、アクセラレータープログラム中で、経営者にとってのリスクを下げ、成功確率を高める手法の成功事例などを作っていきたいと考えています。

最後に、アクセラレータープログラム全体の課題として、大企業側のインセンティブを作りにくいという課題があります。たとえば、サラリーマンとして関わり始めた人が自分で株を持ち、事業部ごと会社としてカーブアウト…など、企業人の新しいキャリア形成の可能性も探っていければいいと考えています。

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