2023.12.20

新規事業開発における「既存ブランド」の活用方法について解説

新規事業開発における「既存ブランド」の活用方法について解説

大企業は、既存事業のブランド(サービス名・社名など)が世の中に認知されていたり、そのブランドに対して具体的なイメージを持たれています。

具体的なイメージとは、例えば

  • 「信頼できる」
  • 「安心・安全」
  • 「革新的」
  • 「ある特定の領域に強い」

などが挙げられるでしょう。

これらは既存事業に対してプラスの効果を与えるように設計され、ブランディング施策を実行した結果として得られた“ブランド力”だと言えます。(ブランドに関する考察は今回は範囲外とし、あくまで上記概念レベルに留めたいと思います)
ではそのブランド力を、新規事業開発にも活用しようとすると何が起こるでしょうか?既存ブランドの知名度や信頼を借りることで反響を得やすくなるなど、活用した場合のメリットに目が向きがちですが、デメリットが生じるケースももちろんあります。メリット・デメリットを把握したうえで正しく意思決定ができるように、今回はいくつかデメリットになり得る例を示したいと思います。

「既存ブランドを新規事業開発に活用する」とは?

ブランド力は認知されている企業名やサービスブランド名に紐づきます。
分かりやすい活用例としては
「株式会社xxxxの新規サービスとしてテストセールスを行う」
「既存サービスのヘビーユーザーに新規サービスのβ版を使ってもらいユーザーヒアリングを行う」
などがそれにあたります。

自社の新規事業開発を任されるケースでは、「株式会社xxxxの新規サービス」として推進するイメージを最初に持ってしまいがちです。
しかし、それはすでに既存ブランドを活用した新規事業開発という選択肢を選んでいることになります。その選択に明確な目的や意思がなければ、以降で例示するようなデメリットを見落とすことになるので注意しましょう。

既存ブランドを活用しない方が良いケースとその理由

ではここからは、具体的に既存ブランドを活用しない方が良いケースとその理由を見ていきましょう。

打ち出したいイメージのアンマッチ

ブランド戦略の観点で既存ブランドと新規事業の方向性が異なる場合は、既存ブランドを活用すべきではありません。既存ブランドに引っ張られて、新規事業で顧客に伝えたいことやサービスの売りが正しく伝わらないリスクがあるからです。例えば、既存ブランドにおいて「古参・安心安全」を謳っていたにも関わらず、新規事業で打ち出したいイメージが反対に「革新・挑戦」だった場合などです。

新規事業において「革新・挑戦」を軸に顧客とのコミュニケーションを図ろうとしても、既存ブランドのイメージが先行してしまい、結果として「革新・挑戦」のイメージが醸成されずに新規事業の軸がブレ続けてしまう可能性があります。
既存事業と新規事業でブランドイメージが異なる失敗事例として、ユニクロを運営する株式会社ファーストリテイリングの野菜販売事業「SKIP」があります。「高品質で低価格」というユニクロのブランドイメージとは異なり、食料品は価格よりもおいしく安全かどうかが重要という見立てから「SKIP」では「高品質で少し高い価格」というポジションを取りました。結果として約30億円の赤字を出し撤退しています。失敗の要因は顧客ニーズの把握が甘かったことや衣料品と異なり計画生産ができなかったことなど複合的なものですが、「高品質で低価格」という既存イメージと比較すると質が下がったように感じてしまう「高品質で少し高い価格」でのブランディングも要因の1つです。

既存ブランドの毀損(きそん)リスク

新規事業はトライアンドエラーの繰り返しであるため、失敗時のリスクをコントロールすることがとても重要となります。
既存ブランドを活用することは失敗時のリスクを強めることになるため、全社的に見るとデメリットの1つと言えます。
先ほどの例で考えると、「革新・挑戦」を打ち出していた新規事業が失敗した際に、既存事業を支えてきた「古参・安心安全」という既存ブランドを毀損し、結果として既存事業の業績に悪影響を与える可能性があります。
ブランドは、確立するまで長い年月を要しますが、反対に短期間で一瞬にして崩れる脆さがあります。既存ブランドを活用した新規事業開発においてはそのリスクをコントロールすることが求められ、リスクを回避するためには既存ブランドを活用しないという選択も検討しなければいけません。

意思決定・PDCAスピードの鈍化

既存ブランドのブランドマネジメント側の視点に立つと、毀損リスクを最小限に抑えるために新規事業の意思決定への介入が必要になります。引き続き先ほどの例で考えると、既存ブランドの名のもとで新規事業のプロモーション施策を実施しようとした際に、既存ブランドのブランドマネージャーは『安心安全のイメージを崩してしまう可能性のあるメッセージは認められない』という介入(NG判断)を行う可能性があります。もしNGにならなかったとしても、うまく進めるための社内調整であったり、ブランドマネージャーの意思決定待ちであったりと、時間やリソース負荷がかかってしまうケースが多く見受けられます。

このように、意思決定スピードの鈍化や、そもそも必要だと考える仮説検証プランに対してNGが出るなど、新規事業推進の上でクリティカルな問題が発生します。意思決定の最たるものが、継続・撤退判断です。既存ブランドを使って始めてしまった以上、やめたくてもやめられない状況が発生し得ます。長期間ヒト・モノ・カネを投下して推進する覚悟がなければ、既存ブランドを使った事業開発は行うべきではないと言えるでしょう。

正しいビジネスモデルの仮説検証ができない

新規事業では、サービスやプロダクトが市場にマッチしているか、仮説検証しながら推進することがとても重要です。しかし、既存ブランド力があまりに強い場合、サービスやプロダクトが洗練されていなくても反響を得てしまうようなケースが稀にあります。(そのような戦術を意図的に選択しているケースは問題ありません)

ただ、市場に受け入れられるかどうかの検証が不十分なサービスやプロダクトの場合、既存ブランド力によって目の前の売上を実現することよりも、未検証である仮説を検証し、事業拡大が見込める構造を明確にすることの方が圧倒的に重要です。それが不十分だと、自社より洗練された他社のサービスやプロダクトが参入してきた際の競争に負けてしまう可能性が高いと想定されます。

重要なのは目標/目的の達成を阻害しないこと

今回は既存ブランド活用が新規事業開発に悪影響を与えるケースを見てきました。新規事業開発のフェーズによって達成すべき目標/目的は異なりますが、悪影響を与えるケースは、既存ブランドがそれらを阻害してしまう可能性が高いと言い換えられます。その時々において、既存ブランド活用がどのような影響を与えるのかを検討し、活用要否を冷静に判断されることが求められると思います。
ぜひこの記事で触れた観点を参考にして頂ければ幸いです。

引用

  1. 大失敗したユニクロ野菜から、GUが生まれた
  2. 成功事例・失敗事例から見るブランド戦略の効果

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