バランスト・スコアカード(BSC)の作り方|4つの視点から経営戦略を考える

企業や新規事業を評価する上で重要なポイントとして、複数の視点から多角的に分析することが挙げられます。バランスト・スコアカード(BSC)は、現代のビジネスにおける複雑な業績評価を4つの視点から捉える手法です。また、戦略やビジョンを具体的な行動にまで落とし込むことができるフレームワークでもあります。本記事では、「バランスト・スコアカード」の概要と策定ステップについて解説していきます。
Contents
- 1 バランスト・スコアカード(BSC)とは
- 2 なぜバランスト・スコアカード(BSC)が必要なのか
- 2.1 BSCが生まれた背景
- 2.2 BSCの特徴
- 2.2.1 ①ビジョンと戦略の明確化 企業経営あるいは新規事業の創出において、ビジョンと戦略は非常に重要な要素です。BSCはそれらを明確に定義し、従業員やメンバーが事業の方向性理解をサポートします。
- 2.2.2 ②戦略の具体的活動への落とし込み BSCは、ビジョンと戦略から具体的な戦略目標や施策を抽出し、従業員やメンバーなど、現場レベルのアクションプランを設計します。つまり、戦略と整合性のある目標を設定し、具体的活動に落とし込むことができるため、社内のPDCAを適切に回すことに繋がります。
- 2.2.3 ③継続的な経営改善 BSCによって設定した業績評価指標に基づき評価を行うことで、戦略が正しいか、業務プロセスは適切であったか見直されます。これにより、経営の改善が継続的に図られることになります。また、戦略とアクションプランの整合性が適切に見直されることで、各メンバーのモチベーション向上や意識の変革が促進されます。
- 3 BSCを構成する4つの視点
- 4 BSCの策定ステップ
- 5 BSCの作成に用いるフレームワーク
- 6 バランスト・スコアカード?バランス・スコアカード?
- 7 まとめ
バランスト・スコアカード(BSC)とは
新規事業を進めていくうえで、適切な評価はできていますか?多くの評価項目を設計できていても、抜け漏れがないか不安に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回ご紹介するバランスト・ スコアカード(以下、BSC)は、企業の業績を評価するツールとして、1992年にロバート・キャプラン教授らによって発表されました。日本でも2000年代に入って大企業を中心に採用されており、聞いたことがあるという方も多いかもしれません。
BSCは、財務的な評価指標である「財務」に加えて、非財務的な評価指標である「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の計4つの視点から構成されており、バランスの取れた業績評価を行うことができます。
バランスト・スコアカード(BSC)
なぜバランスト・スコアカード(BSC)が必要なのか
BSCが生まれた背景
しかし、なぜBSCを作成する必要があるのでしょうか。
背景として、ビジネスの複雑化があります。近年、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)といわれるように、近年ビジネスを取り巻く環境はめまぐるしく変化し、将来の予測が困難な時代になっています。
そのため、1つの事業や部門に対するリソースの集中はリスクであると認識され、企業は事業の多角化を推進するようになってきています。そこで、従来行っていた財務指標のみの評価だけでなく、顧客や人材、業務プロセスなど見えにくい部分の経営品質についても評価することによって、バランスの取れた経営を進めることが重要視されるようになりました。
このような経緯があり、伝統的な経営管理システムや分析手法が機能しなくなってきたことから、多角的かつ具体的に事業を実行し評価できるツールとしてBSCが提案されたのです。
BSCの特徴
BSCには、以下に示すような特徴があります。
①ビジョンと戦略の明確化
企業経営あるいは新規事業の創出において、ビジョンと戦略は非常に重要な要素です。BSCはそれらを明確に定義し、従業員やメンバーが事業の方向性理解をサポートします。
②戦略の具体的活動への落とし込み
BSCは、ビジョンと戦略から具体的な戦略目標や施策を抽出し、従業員やメンバーなど、現場レベルのアクションプランを設計します。つまり、戦略と整合性のある目標を設定し、具体的活動に落とし込むことができるため、社内のPDCAを適切に回すことに繋がります。
③継続的な経営改善
BSCによって設定した業績評価指標に基づき評価を行うことで、戦略が正しいか、業務プロセスは適切であったか見直されます。これにより、経営の改善が継続的に図られることになります。また、戦略とアクションプランの整合性が適切に見直されることで、各メンバーのモチベーション向上や意識の変革が促進されます。
このように、BSCは単なる経営管理ツールではなく、戦略のマネジメントや社内変革にも適用できるフレームワークとしての要素も兼ね備えています。
BSCを構成する4つの視点
冒頭で述べたように、BSCは「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習」の4つの視点で、業績の評価や、経営戦略及び事業計画の整理を行います。
財務の視点
財務業績での成功を目的として、株主や債権者などのステークホルダーに対してどのように行動するかを設定する項目です。「重要評価指標(KPI:Key Performance Indicator)」の例としては、「純売上高」、「営業利益」、「株主資本利益率(ROE)」、「キャッシュフロー」、「投資収益率(ROI)」などが挙げられます。
顧客の視点
顧客にサービスや製品を継続的に利用してもらうことを目的として、顧客に対してどのように行動するのかを設定する項目です。ポイントは、顧客の立場(顧客志向指標)と企業の立場(顧客収益性指標)に分解することです。これによりKPIの例としては、
・顧客の立場:顧客満足度、リピート率
・企業の立場:顧客当たり売上高、顧客当たり費用
などが挙げられます。
業務プロセスの視点
業務活動の効率化や、顧客対応力の向上を目的として、どのようなビジネスプロセスが重要かを設定する項目です。ポイントは、以下の3つのプロセスに分け、それぞれに対応するKPIを設定することです。
1.市場・顧客ニーズに合致したサービスや製品を開発する「イノベーション・プロセス」
2.サービスや製品の生産/販売などの「オペレーション・プロセス」
3.サービスや製品を提供した後のアフターフォローである「アフターサービス」
KPIの例としては、生産リードタイム、納期遵守率、訪問顧客数、不良品発生率などが挙げられます。
学習と成長の視点
中長期的な視点での企業の変革・改善能力の向上を目的として、組織や人材をどのように成長させるかを設定する項目です。KPIの例としては、社員定着率、従業員満足度、能力向上率、資格取得率などが挙げられます。
BSCの策定ステップ
以上の4つの視点を踏まえ、ここからはBSCを作成する5つのステップを説明します。
ステップ1 ビジョンと戦略の策定
はじめに、企業または新規事業のビジョンと戦略を明確化します。すでに設定されている場合は、そのビジョンと戦略が適切か、再度検討を行い、改めてメンバーで共有するきっかけとすると良いでしょう。このとき、企業の置かれている市場環境や競争環境を分析したうえで、ビジョンと戦略を設定することが重要です。具体的には事業環境マップなどを使って可視化を図ることをオススメします。
ステップ2 各視点の戦略目標(KGI)と重要成功要因(CSF)の定義
次に、「財務」、「顧客」、「業務プロセス」、「学習と成長」の4つの視点に基づいて、ビジョンと戦略を実現するための戦略目標を設定します。この目標が「重要目標達成指標(KGI:Key Goal Indicator)」になります。さらに、設定した戦略目標を達成するための「重要成功要因(CSF:Critical Success Factor)」を決定します。ここでは、SWOT分析を活用することでMECEに検討すると良いでしょう。
ステップ3 重要評価指標(KPI)とターゲット数値の設定
続いて、設定したKGI及びCSFを実現・評価するための指標として「重要評価指標(KPI:Key Performance Indicator)」を決定します。ここでは、財務的な業績指標だけでなく、ビジョンと戦略の実現に必要な非財務的な業績指標についても設定することが重要です。KPIを設定後、それぞれの指標に対して具体的な数値目標を設定します。
ステップ4 アクションプランの作成
各KPIに対するターゲット数値まで設定ができれば、次は実現に向けて取るべきアクションプランを作成します。いつまでにどのような行動を取ることでKPIを達成するのか、個人のレベルまで落とし込んで検討することになります。なお、目標を設定するだけでなく、実際に行動に移すことが最も重要です。
ステップ5 BSCの完成
最後に、ステップ4までをふまえてバランスト・スコアカードを完成させます。ここでは、各項目間の整合性とストーリー性があるかを確認することが重要です。また、ステップ2で設定した戦略目標について、それぞれの因果関係を結び、戦略マップとして視覚化します。
食品スーパーM社のBSC作成例
(出典:技術開発型企業における知的財産の視点を加味したバランス・スコアカードによる戦略研究)
BSCの作成に用いるフレームワーク
ステップにおいてもご紹介したように、バランスト・スコアカードを作成するにあたって、便利なフレームワークがいくつかあります。論理的に検討した結果を整理し、抜け漏れがないか確認する点でも有効なので、ぜひ使用することをオススメします。
事業環境マップ
事業環境マップは、企業の外部環境を分析するためのフレームワークです。「業界」「トレンド」「マクロ経済」「市場」の4種類を主な外部環境として分析を実施し、自社または新規事業のプロジェクトがどのような状況下にいるのか把握します。
SWOT分析
SWOT分析では、「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4つの視点から、事業環境マップの結果と内部環境を整理します。特に、内部環境については「強み」と「弱み」、外部環境については「機会」と「脅威」に分けて整理します。このフレームワークを用いることで、重要成功要因(CSF)を決定しやすくなります。SWOT分析について詳しく知りたい方は下記の記事をご一読ください。
バランスト・スコアカード?バランス・スコアカード?
BSCを検索すると「バランスト・スコアカード」と「バランス・スコアカード」の両方がヒットします。これは、BSCを使う人によって読み方が異なることが原因です。管理会計の研究者は「バランスト」、実務家は「バランス」を用いる傾向にあると言われています。しかし、どちらの名称であっても本質的な違いはなく、「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点でバランスの取れた分析及び評価を行うことが重要です。
まとめ
バランスト・スコアカード(BSC)は、業績評価のツールとして提案され、現在では企業や新規事業のビジョン及び戦略を具体的な行動に落とし込むフレームワークとしても使われています。網羅性や客観性の高い評価を行い、次のアクションにつなげていくためのフレームワークとしてぜひ活用してみてはいかがでしょうか。
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