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2020.5.12

株式会社電通 片山 智弘氏が語る ~イントレプレナーとして 事業を成功に導く秘訣〜(前編)

株式会社電通 片山 智弘氏が語る ~イントレプレナーとして 事業を成功に導く秘訣〜(前編)

今回は株式会社電通でシニア・ビジネス・プロデューサー、兼クロシードデジタル株式会社の取締役CSOも務める片山 智弘氏にインタビューしました。

片山氏には、学生時代に起業しM&Aで事業を売却した実績と、新卒で入社した株式会社電通にて複数の新規事業を黒字化に導いた実績があります。アントレプレナーとイントレプレナー両方の成功体験を持つ片山氏に、前編は「イントレプレナーとして事業を成功に導く秘訣」について、後編は「新規事業におけるデジタルテクノロジーとの適切な距離感」についてお伺いしました。

アントレプレナーとしての成功体験

(Battery編集部)
本日はよろしくお願いします。はじめに片山さんのご経歴について教えてください。
慶應義塾大学大学院に在学中に起業されたと伺っていますが、どのような会社だったのでしょうか?

(片山氏)
就活生をターゲットとしたSPI試験の練習ができるサイトの運営会社でした。
学生時代の専攻は化学で最初は学者を目指していたのですが、学部の3年生だった時に経験したインターンで、マーケティングや事業開発などのビジネスサイドに関心を持ちました。
大学院生に上がった際に、ベンチャー企業で事業開発にチャレンジできるインターンを探したのですが、約10年前の当時はベンチャーでの学生インターンは一般的ではなく、なかなか見つからなかったんです。そこで、ビジネスに関心のある友人たちと会社を立ち上げたのが始まりです。

当時はeラーニングの黎明期でSPI試験を練習するのに1回数千円もかかる時代でした。受験の替え玉なんかも横行していて。中学校レベルの試験問題を、替え玉受験というある種の経歴詐称行為で乗り切らないといけない状況を何とかできないかなと思ったんです。そこで無料で練習できるようにして広告で収益を得るモデルはどうだろうと考え実際にサイトを立ち上げました。アルバイトで塾の講師を4年間していた中で、教材も作れそうだなと思っていました。

(Battery編集部)
関心のあるインターンがないことが起業のきっかけだったのですね。すごい行動力ですね。
収益は出ていたのでしょうか?

(片山氏)
収益は2年目の後半からは出ていました。自分の学費も賄えましたし、事業は順調に推移していたのですが、社会がよくなっているという実感が湧かなかったんですね。
自分自身に未熟さも感じていて、もっと大きなスケールで仕事がしたいと思い始めたんです。

そこでサイトはM&Aで売却し、就活をして電通へ入社しました。
ずっと理系で、大学でも化学を専攻していた影響もあり、分野を問わず最新のテクノロジーやメソドロジーが好きで、それらを社会に出していきたいという想いを抱いていました。
当時はアドテクノロジーの勃興期で、電通なら大きなスケールで自分のやりたいことをできると思ったんです。

 

イントレプレナーとしての成功体験

(Battery編集部)
学者を目指していたら、いつの間にか事業開発分野にのめり込んでいたのですね。
電通では、どのような新規事業を担当されてきたのでしょうか?

(片山氏)
電通では大きく3つの新規事業に携わりました。

①電子書籍事業

入社後すぐに過渡期であった電子書籍事業の開発を約3年半ほど担当しました。米国のApple社が開発したNewsstandという新聞や雑誌の電子版をダウンロードして閲覧できるサービスがあるのですが、そのNewsstand向けに50個ほど電子雑誌アプリの開発をディレクションし、電子書籍を取り扱うネット書店「マガストア(後に富士山マガジンサービス社へ譲渡)」も運営しました。また、入社1年目の後半には一緒にやっていた教育係の先輩が担務変更になり、電子雑誌業務支援システムである「Magaport」の開発責任者となりました。現在「Magaport」は、富士山マガジンサービス社とのジョイントベンチャーである株式会社magaportの中核サービスとしてイグジットされています。

参考URL:https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2017/0419-009275.html

②BAツールを利用したデータのレポーティングシステム事業

SNSの全量データや、レビューサイト情報、広告出稿ログなどを一覧できるサービスの開発/分析を担当しました。販売してフィーを得るシステムパッケージです。この事業は、一部が電通内で使われている「People Driven Marketing」というマーケティング領域のフレームワークのベースになるなど、現在では全社メソッドとして広がっています。こちらは責任者ではなかったのですが、主要メンバーの1人として電子書籍事業と同時並行で約5年と長い間担当しました。

参考URL:https://www.dentsu.co.jp/business/pdm/

③電通グロースハックプロジェクト

こちらは事業を伸ばす内部改善やグロースハックに寄与するツールベンダーとアライアンスを組み、コンサルティングソリューションを販売するプロジェクトで、責任者として担当しました。2015年に3人でスタートし、その後10人程度のチームにグロースさせ、PoCから黒字化まで推進しました。2019年3月には、電通デジタルにこのグロースハックを専門にする部署が設置され、その部署を中核のリーダーにした電通と電通デジタルのバーチャルプロジェクトは大きな組織となっています。部署化に伴い、オーナーシップはプロジェクトを一緒に推進してきた電通デジタルのグループマネージャーに引き継ぎました。

参考URL:https://growthhack-project.com/

すべて周囲の協力がなければ絶対にできなかったことですが、担当した3つの新規事業を、一桁億後半から二桁億前半ほどの規模に成長させ、黒字化と平準化まで推進した成功体験は自分の自信になっています。特に事業がその後ジョイントベンチャーとしてイグジットされたり、全社メソッドになったり、子会社で部署化されるなど、ベンチャー企業でいうプチ上場に近い経験もできているのが大きいですね。

現在は、セガグループでエンターテインメントの力を使って企業課題や社会課題の解決に取り組むクロシードデジタル社(電通が資本参画)の役員や、東京ミッドタウン日比谷の6階にある産業創出拠点BASE Qの運営/事業伴走サービスの責任者を務めています。
今後も事業開発やエコシステム作りのチャレンジを続けていきます。

イントレプレナーとアントレプレナーの最大の違い

(Battery編集部)
不確実性の高い新規事業で3つとも黒字化させたのはすごい成功体験ですね。
アントレプレナーとイントレプレナー両方の成功体験を持つ片山さんにお伺いしたいのですが、両者の決定的な違いはなんでしょうか?

(片山氏)
決定的な違いは、「事業をはじめるプロローグ」だと思います。例えば私はラーメンが好きなんですが、好きだからラーメン屋をやりたいというのは個人にとっては立派な理由、ストーリーのプロローグになります。私の場合は大学の専攻を活かして、化学で味を突き詰めたラーメンとか。

しかし、会社の中で事業をはじめる際には、「なぜその事業をやるのか」という理由は会社のアイデンティティやリソースに関係してきます。その会社だからこそやる理由がなければ事業アイデアが社内で通ることはないはずです。仮の話ですが、電通が「ラーメン屋をやります!」と言ったら社内外の反応として「え、なんで!?」となると思いませんか。

イントレプレナーでもアントレプレナーでも、ミッション、ビジョン、バリュー、マインド、スキルは突き詰めていくと、結局、事業開発と経営で結果を出すことに行きつくので、最後は同化していくと思います。会社のアイデンティティやリソース、アセットがプロローグの前提としてあるか否かが最大の違いだと私は考えています。

イントレプレナーとしての事業を成功に導く秘訣

(Battery編集部)
なぜその事業をやるのかという背景が異なるということですね。
それではイントレプレナーとして事業を成功に導く秘訣は何だと思いますか?

(片山氏)
ポイントは大きく3つあると思っています。

アセット活用による優位性の醸成

1つ目は前述のプロローグの話とリンクしますが、すでに歴史がある会社のアセットやリソースを活用してどれだけ優位性をつくれるかが大切です。私は会社の強みやアセットを植物に例えて、葉っぱ(見える強み)と根っこ(見えないが会社の競争力の基になる強み)と言ったりしています。電通で例えると、葉っぱとしての強みが企業との繋がりが多いことだったり、社内にクリエイターやマーケティングプランナー、プロデューサーがいることだとすると、根っこは、新聞のお悔やみ広告に始まり、テレビ広告など新しいマーケットをつくってきた歴史とそのノウハウです。自社における葉っぱと根っこが何かを見極めて事業に活用することが一番大切だと思います。

バイアス転換

2つ目は、取り組む事業が既存事業とまったく異なる領域(飛び地)か、既存事業の延長線かでポイントが異なります。いわゆる飛地の新規事業の場合は、自社特有の癖やバイアスを認識し、それが事業にとって良いバイアスか悪いバイアスかを見極め、良いバイアスは活用し、悪いバイアスは転換することが大切です。

例えば、BtoCサービスの企業がBtoBの新規事業を立ち上げるというので、顧客先に出すコンサルティングの契約書を確認したところ、その企業がいつも下請けに出している契約書と同じ契約内容だったことがありました。冷静に確認すればおかしいと気づきそうですが、普段依頼する立場しか経験していないことからくる悪いバイアスの例だと思います。

オペレーションの平準化

既存事業の延長線にある事業の場合は、ある程度既存事業のノウハウが活用できますが、既存事業とは異なる部分と新しい座組みを見極めて、迅速にオペレーションを平準化することが重要になります。

例えば、前述の電子書籍事業で、雑誌アプリを50個開発した際には、すぐにSDK(*1)に落としビルド(*2)して1-2週間でアプリを1つ開発できるようにしました。売れば売るだけトップラインが上がるモデルだったため、どうやって迅速かつシステマティックに開発を進められるかを考え、オペレーションを平準化したのです。

また、グロースハックプロジェクトでは、ナレッジをオペレーションに盛り込むことで平準化し、それを全社のプロジェクト外のメンバーにもシェアしました。誰でも提案や説明をできるようにしたことが、成功要因の1つだと思っています。

*1 SDK=特定のソフトウェアを開発する際に必要なツールのセット(APIのライブラリ、サンプルプログラム、技術文書などが含まれる)のこと
*2 プログラミング言語で書かれたソースコードなどを元に実行可能ファイルや配布パッケージを作成する処理や操作のこと

イントレプレナーとして成功する人の特徴

(Battery編集部)
自社のアセットやバイアスを見極めて活用する力、迅速にナレッジを浸透させることが大切なんですね。どのような人がイントレプレナーとして成功すると思いますか?

(片山氏)
これも大きく3つ特徴があると思っています。

①「なんだかんだ」会社が好きな人

会社に心酔してしまっていると、時にはバイアス転換も必要な新規事業を立ち上げることは難しいと思います。客観的に様々な角度から会社を分析し、あるべき方向へ推進する力を持っていて、でも「なんだかんだ」会社に愛着があって組織の良い部分も理解している人が良いと思います。

②会社が安定しているからこそチャレンジできる人

会社に所属しているイントレプレナーは個人で借金を背負ったり、事業が上手くいっていないために給与がもらえないということはないと思いますが、その中でも危機感を持って、チャレンジしなければ新規事業は立ち上げきれません。会社が安定しているからこそ、そこに安住せずにチャレンジしたいと思えるかが大切です。

③同調圧力は嫌いでも、上手く社内の調整ができる人

①に近いですが、大手企業などの大きな組織にはすでに収益基盤があり、その業務実態に沿ったマインドや行動の平準化が求められるため、同調圧力がどうしても生まれます。その中でイントレプレナーは、同調せずにやりたいことを貫き通しながら、同調を求める人たちと上手く協力して味方になってもらえるように調整できる力が必要です。

3つに共通するのは、組織に対して批判的な視点と肯定的な視点のほど良いバランス感覚を持っていることですね。そして、それを楽しめる人がイントレプレナーとして成功すると思います。

(Battery編集部)
ありがとうございます。引き続き「新規事業におけるデジタルテクノロジーとの適切な距離感」についてお話を伺います。後編もよろしくお願いします。

 

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