2024.3.14

デザイン思考の5つのプロセスとは?定義やビジネスにおける活用方法を事例付きで解説

デザイン思考の5つのプロセスとは?定義やビジネスにおける活用方法を事例付きで解説

近年、様々な企業でデザイン思考が導入され、多くの成功事例が生まれています。しかしながら、デザイン思考というものは知っているが、実際はよくわからない、どうやって進めていいか分からない、という人は多いのではないでしょうか。そんな方々に向けて、デザイン思考の概要から進め方、成功事例を網羅的にご説明していきます。

デザイン思考とは?

概要

Wikipediaによると、デザイン思考は以下のように定義されています。

デザイン思考(でざいんしこう、英: Design Thinking)とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である。

しかし、これだけでは抽象的すぎて一体どのようなものなのか分かりません。

具体的に言うと、顧客(ユーザー)の欲求・要求・不満を観察した上で課題を設定し、彼らの課題を解決するアイデアを生み出していきます。そのアイデアをもとに身近にあるもので試作し、実際に顧客に対して検証を行いながら試行錯誤を繰り返していくことで、新しい製品やサービスを生み出し課題解決につなげていくというものです。

デザイン思考を新規事業開発やイノベーションに活用するための5つの過程とは

デザイン思考には、具体的に以下の5つの過程が必要となります。まずその定義について、紹介します。

共感(Empathize)

イノベーションを起こすためには、まず顧客を理解し、彼らの生活に関心を持たなければなりません。顧客がどのように行動するのか、身体的および感情的な欲求は何か、世界をどのように考えているのかなど、彼らにとって有意義なものとは何かを理解する必要があります。

問題定義(Define)

デザイン領域において着眼点を定め、優れた解決策を生むきっかけをつくる段取りに当たります。街頭等での聞き取りを行い、その結果をチーム内で共有し、何が本当の問題なのか、どのような問題に取り組むべきなのか、決定します。

創造(Ideate)

顧客の欲求を観察した上で課題を設定し、定義された目的や方向性を実現するためのアイデアを多量に生産する段階です。この段階では、ブレインストーミングやアイデア創出技法が活用され、質よりも量を重視し、考えられるさまざまなアイデアを創造します。

試作(Prototype)

アイデアの価値を確認するために、必要最低限の機能だけを備えた試作品を素早く製作していきます。試作品なので、紙コップやダンボールなど、身近にある簡単なもので作っても構いません。

検証(Test)

前段階で製作した試作品を、実際に顧客に体験していただき、顧客からの意見を受け改善していくのが検証です。改善の度合いはさまざまですが、妥協をいとわず大幅な方向転換をしなければならない可能性もあります。

デザイン思考は上記5つの工程が必要となりますが、実際には創造、試作、検証の工程を何度も繰り返し行います。そうすることで解決策を洗練させることができ、イノベーションへとつながっていきます。

デザイン思考が新規事業開発やイノベーションの手法として注目される理由と意味

注目される理由

では、こうしたデザイン思考が近年特に注目されている理由について見ていきましょう。

欲求・要求・不満の多様化

消費社会の成熟に伴い、近頃顧客の欲求はますます多様化しています。従来、新たな製品やサービスを生み出す場面では、マーケティングリサーチが重要視されてきました。市場や欲求について調査した結果から仮説を立て、それをもとに製品やサービスの開発を行ってきました。

しかし、欲求が多様化し変化の激しい昨今において、こうした仮説検証型でのマーケティングは難しくなっており、顧客が抱えている問題の本質を捉えることが難しい事例が多発しています。そうした、変化の激しい環境の中で、仮説・プロトタイプ・検証を迅速に回せるデザイン思考が求められています。

第4次産業革命

AIやIoT、ロボットなど、最近では製造業を自動化する動きが見られます。これを一般的に「第4次産業革命」と呼び、工場の生産性や効率を上昇させるためのものです。そのような変化の中で、これまでの価値観に捉われない課題解決方法が求められ、これからの社会では自らが課題を設定し、市場を生み出さなければビジネスにはつながりません。そうしたことから、イノベーション創出に長けたデザイン思考が必要とされています。

オープンイノベーション時代

デザイン思考と並行して注目されているのが「オープンイノベーション」です。内部だけでなく自社外の組織メンバーや顧客との連携を通じて、新たな製品やサービスを創出していくオープンイノベーションでは、ネットやSNSの普及により、時間や場所、費用をかけることなくさまざまな意思疎通が可能となり、新たなイノベーションを生み出す機会が増えています。

自社の技術だけでなく、多様なアイデアを取り入れながら創出していく姿勢は、デザイン思考の工程で行われる”アイデアの量産”につながります。それぞれのもつアイデアの強みを組み合わせて革新的な製品やサービスを開発していくことは、両者の共通項と言えるため、オープンイノベーション時代が進むにつれ、デザイン思考も必要不可欠な存在となりうるでしょう。

取り入れる意味

続いて、デザイン思考を取り入れる意味について深掘りしてみましょう。

新しい発想が生み出せる

デザイン思考を活用する最大の効果は、イノベーションの創出です。顧客中心の考え方であるデザイン思考では、これまでの延長線上ではなく今まで以上に新しいアイデアを生み出すことができ、市場中心のアプローチではなく、欲求から課題の本質を見極めることができます。

強力なチームを作れる

デザイン思考は顧客中心でアイデアを生み出しているため、チーム内のコミュニケーションはとても重視されます。試行錯誤する過程において全員が発言権を持つことができ、アイデアの重要度も平等に扱われます。そのため、メンバーの役職や上下関係に左右されない意思決定を行うことにより、積極的なアイデア創出にも着手できるのです。

デザイン思考を実践する5つの過程の進め方

ここからは、前述した5つの過程の進め方についてお話しします。

共感(Empathize)

①観察する

顧客の生活環境における行動を見ます。顧客の声を聞くことに加え、適切な場面で出来る限りの観察をしましょう。いくつかの良い気付きは、人の発言と行動の間にある矛盾に注目することで得られます。もしくは、彼らが考え出した行動回避策の可能性もあります。それらを顧客が意識しているかわからないので、注意深く観察することを心がけましょう。 

②関わる

顧客の声を聞くときは、「会話」することを意識しましょう。質問事項は準備しながらも、リラックスした会話をすることを心がけましょう。相手から話を引き出し、常に「なぜ」と聞いて深い意味を明らかにしましょう。顧客と積極的に関わることが、例えその日が初対面でも上手くいく可能性が上がります。

③見て聞く

「観察する」と「関わる」をうまく組み合わせる必要があります。普段の行動をするようにお願いしてみましょう。その行動の間に、なぜその行動をしているのか質問したり、頭の中で何を考えているのか声に出して共有してもラウことが大切です。

問題定義(Define)

会話や観察時に何か違和感や印象に残ったことはありませんでしたか。何か面白い事に気付いたら、なぜそうなのかを掘り下げましょう。顧客の言動や気持ちについてなぜを問いかけることで、課題の要因を突き詰められるはずです。そして、満たす必要があると思われる事柄を残し、実際に取り組むべき事柄を一つ表現するとよいでしょう。

創造(Ideate)

次に課題を解決するアイデアを考える工程です。ひたすらアイデアを出すことが求められますが、ここで意識して欲しいのは、アイデア出しとアイデア評価を切り分けて行うことです。そうすることで、後で利点を検証する際に必要な合理的知識は一旦脇に置いて、想像力と創造性の発揮に注意を向けることができるでしょう。

 試作(Prototype)

①道具を準備する

紙やテープなどの作業開始に役立ちそうな道具を見つけるところから始めてみましょう。

② 1つのプロトタイプに長い時間をかけない

愛着を持つ前に次のプロトタイプに移りましょう。

③ 検証したい仮説を言語化

プロトタイプで何を検証するのか把握しておきます。検証するときに、顧客が答えやすい質問を事前に用意しましょう。

④顧客目線で考える

「顧客に何を検証してほしいか?」「どのような行動を期待しているか?」 これらの質問に答えることでプロトタイプに集中でき、検証段階において有益な回答が得られます。

検証(Test)

①言うのではなく見せる

プロトタイプへ手を加えてもらうか、変えるべきか、顧客の対応から見極めなければなりません。最初からすべてを説明せず、顧客がプロトタイプに対応できる時間を用意しましょう。顧客がプロトタイプをどう使うか(誤用するか)、どう扱いどんな反応をみせるか観察し、プロトタイプについて述べたことや顧客からの質問に耳を傾けます。 

②顧客に比較を依頼する

顧客が比較できるように、複数のプロトタイプを試します。比較することで、しばしば潜在的欲求が明らかになります。

デザイン思考を新規事業開発やイノベーションに活用した事例

ここでは、実際にデザイン思考を活用した企業や商品事例について紹介します。

Wii

2006年に発売された任天堂の「Wii」は、デザイン思考の過程を経て開発された家庭用ゲーム機です。Wiiを開発するにあたり、任天堂の社員たちは以下のようなさまざまな段階を踏みました。

まず、自社の社員たちの家庭について調査したところ、「ゲーム機は親子関係を悪化させる」「子どものリビング滞在時間が短くなる」といった負の結果が浮上。それらをもとに、「家族で楽しむことができ、かつ親子関係を良くするゲーム機の開発」といった方向性に定め、開発チームは「家族みんなで楽しめるゲーム機」「リビングで場所を取らないコンパクトな設計」など、方向性に沿ったさまざまなアイデアを創出していきました。

こうした多くのアイデアをもとに少しずつWiiのモデルは完成していき、重さ・形状・機能性などを考慮しながら、延べ1,000回以上の試作を繰り返しました。こうして2006年12月に完成したWiiは、2017年6月時点で1億以上の販売台数を誇り、いまや国民的家庭用ゲーム機として知られています。

iPod

Apple社が販売している携帯型デジタル音楽プレイヤーの「iPod」も、デザイン思考の過程を経て、開発に至りました。iPodは2001年に初期モデルが発売されて以来、現在までに5つの種類が製造されています。

開発チームは、まずユーザーがどのように音楽を聴いているのか調査を行い、「CDからPCへ、そしてプレイヤーへ音楽データを移行することに手間を感じている」ことと、「どこにいても音楽が聴きたい」という欲求を合わせて発見した。それにより、「全ての音楽をポケットに入れて持ち運ぶ」というコンセプトが確立しました。

結果的にiPodとPCデータを自動で同期させるシステムや、円盤型のマウスによる画面操作といったアイデアが次々に生まれ、そのアイデアを盛り込んだ試作品を製作。当時のCEOを務めていたスティーブ・ジョブズは、そうしたアイデアの詰まった試作品に触れるたび、「もう少しコンパクトに」「音質をもっとシャープに」「メニュー表示を素早く」とさまざまな注文を下し、幾度も試作・検証が繰り返されました。こうして2001年10月に初代iPodは完成し、5年半で1億台を超える世界的大ヒットとなりました。

 P&G

世界有数の消費財メーカーであるP&Gでもデザイン思考を取り入れることで成功を収めています。同社の電動歯ブラシの開発チームは、急速にデジタル化が進む時代の中で生き残るにはIoTが不可欠だと考え、上手に歯を磨けているか感知し、改善方法をアドバイスしてくれる機能、歯肉の敏感性の計測機能、音楽スピーカー機能などをつけた「技術中心のプロダクト」を構想していました。

しかし、外部のコンサルティング会社より助言を受け、「ユーザー中心のプロダクト」にする必要性に気づきました。その後、ユーザーが抱えている不満が「専用の充電器でしか充電できないこと」「換えのブラシを注文するのを忘れてしまうこと」であることを突き止め、「USBで充電可能」「本体のボタンを押すと、Bluetoothで本体と繋がるアプリ上で交換用ブラシのオーダーが自動的にリマインドされる」という機能を組み込むことで、不満を解決するプロダクトとなり成功を収めたのです。

SONY

『 SONY -ラージセンサーカメラ- 』<https://www.sony.jp/ls-camera/products/VENICE/>

SONYでは、近年デザイン思考の考え方を取り入れて製品開発をしています。製品開発を担当するエンジニアだけでなく、デザイナーも製品のユーザー企業やユーザーが実際に製品を使用している現場に訪問し、観察や欲求の声を聞いているのです。このようなやり方で開発した製品の1つが、2018年2月に発売した映画撮影用デジタルカメラ「VENICE(ベニス)」です。

映画撮影では、5人ほどのチームで1台のカメラを操作するのが一般的です。そこでSONYのデザイナーは、ハリウッドやロンドンなどの撮影現場に自ら訪れ、ユーザーへ細かい要望を聞いて、現場での観察を通して「いつ、誰が、どのような操作するのか、どの場面でストレスがかかるのか」を把握しました。ユーザーの要望に応え、できる限りユーザーのストレスを減らせるよう開発を進めていった成果が、ディスプレイの配置や操作性の高いキーレイアウトといったインターフェースです。映画製作に関わるクリエイターたちから「画質と使いやすさを高いレベルで両立している」と称賛を得るプロダクトとなりました。

Yahoo! JAPAN

日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」は、2013年からデザイン思考の全社展開を進めています。

企業規模の拡大に伴い、内部の事務処理に時間がかかるようになったことから、顧客第一のサービスを作ることを目標に掲げました。ところが、何をすれば顧客第一のサービスが実現できるのかという課題にぶつかりました。そんな中注目されたのが、顧客視点に立った新しい価値創出の手法であるデザイン思考だったのです。

デザイン思考を取り入れたいという社員向けに、デザイン思考にまつわるワークショップやセミナーを定期的に開催したところ、参加した社員が担当する案件で、実際にデザイン思考を取り入れるといった事例が報告されるようになったといいます。翌2014年1月には社内にワーキンググループが立ち上げられ、デザイン思考を促進できる人材の育成を進めるなど、全社的な取り組みへと発展するようになりました。

LINE

2011年6月からサービスが開始し、国内ユーザー数7,600万人以上を誇る「LINE」。

LINEでは、新サービスやゲーム開発などの際、想定される顧客の行動観察を目的に、複数のカメラが配置されたユーザーリサーチルームを設け、顧客の徹底した行動分析を行っています。新たに開発したゲームやサービスを想定顧客に試してもらい、実際の操作画面や表情などを観察、そこで発見された顧客の要望を素早くサービス改善に役立てているといいます。実践から改善までの一連の流れはまさに、デザイン思考的手法に値しています。

まとめ

さて、今回は新規事業開発やイノベーションに取り入れられる「デザイン思考」について考察しました。

デザイン思考の際に行われる5つの過程、共感・問題定義・創造・試作・検証を入念に実施することにより、世界的大ヒットを記録する製品やサービスが開発されることは多くあります。実際に上記で触れたWiiやiPodをはじめ、これまでデザイン思考を通じてヒットを遂げたプロダクトはさまざまです。多様化する欲求・要求・需要に対し、解決すべき課題は何なのかを見極め、できるだけ多くのアイデアを出すことで、新しい可能性は無限にあります。

Relicではデザイン思考を活用し、企業のビジネス課題を解決するご支援をしております。

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