オープンイノベーションの意味とは?事例やメリットを徹底解説
「オープンイノベーション」という言葉をお聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか?ビジネスを取り巻く環境が高速かつ複雑に変化する現代において、自社のリソースだけでは顧客のニーズに応えることが難しいケースも増えてきています。
そこで、自社・他社問わず幅広いリソース(知見・技術)を活用するオープンイノベーションが実施されるようになっています。
本記事では、オープンイノベーションとは何か、どのような目的、パターンがあるのかをご説明し、課題と成功のためのカギを解説します。そのうえで、オープンイノベーションに取り組んだことで成功した事例をご紹介しますので、ぜひご参考にしてください。
Contents
オープンイノベーションとは何か?概要と成功事例をご紹介します
ビジネスを取り巻く環境が高速かつ複雑に変化する現代において、自社のリソースだけでは顧客のニーズに応えることが難しいケースも増えてきています。
そこで、自社・他社問わず幅広いリソース(知見・技術)を活用するオープンイノベーションが実施されるようになっています。
本記事では、オープンイノベーションとは何か、どのような目的、パターンがあるのかをご説明し、課題と成功のためのカギを解説します。そのうえで、オープンイノベーションに取り組んだことで成功した事例をご紹介しますので、ぜひご参考にしてください。
オープンイノベーションとは?
そもそも「オープンイノベーション」とはなんでしょうか?
米国研究者ヘンリー・チェスブロウによると、オープンイノベーションの定義は以下のようなものだとされています。
「組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと」
従来、自社内の経営資源や研究開発によるイノベーション(クローズドイノベーション)が中心でしたが、ビジネスを取り巻く環境の複雑かつ高速な変化もあり、近年ではクローズドイノベーションには限界が生じてきています。そこで注目されているのがオープンイノベーションです。
オープンイノベーションの目的
注目度が高まっているオープンイノベーションですが、どのような目的で実施されるのでしょうか?
具体的には以下の2つが挙げられます。
・自社のリソースに限らず、他社の組織のリソースを取り入れることで新たな発想を生み出す
・異なる分野、異なる文化の知見を吸収し、新しい技術革新を起こす
プロダクトライフサイクルが短命になって来たことや、様々な価値観が生まれてきたことにより、現代の企業は常に新しい挑戦をすることが求められています。自社の枠を飛び超え、革新的な製品やサービスを生み出すことが、オープンイノベーションを進めるうえで期待されています。
オープンイノベーションの重要性
日本ではまだ発展途上という状況ではありますが、主に以下の3つの理由により、オープンイノベーションはその重要度を増しています。
①顧客のニーズの多様化
ITの発展とグローバル化の進展など、市場は拡大・複雑化しており、それに伴い顧客のニーズも多様化してきています。ニーズの変化も早くなっているため、対応スピードを上げることが求められるようになっており、1つの企業内で完結させるのでは追いつかないという場面も増えています。そのため、別の企業や組織とのコラボレーションであるオープンイノベーションによって、迅速な対応が必要になっています。
②プロダクトライフサイクルの短期化
技術革新のスピードが速くなっており、製品に使用している技術が陳腐化しやすくなっています。加えて上述のように顧客ニーズの多様化もあり、プロダクトライフサイクルは短期化してきています。このような状況下においては、新しい技術やアイデアを積極的に取り入れることが必要であり、その手段としてオープンイノベーションが重要になってきているといえます。
③時間・人的コスト削減の必要性
1つの企業内で開発から製品化・リリースまでを実施する場合、多くのコストが発生します。顧客ニーズが多様化し、プロダクトライフサイクルが短期化してきている中で、そのようなコストを負担し続けることは現実的とは言えません。そのため、外部のリソースを取り入れ、連携を進めることによって、時間・人的コストを削減する必要性が高まってきているのです。
製品やサービスを取り巻く環境の変化が激しい今の時代において、オープンイノベーションは重要な取り組みであり、有力な選択肢の1つとなっています。
オープンイノベーションの類型
真鍋・安本(2010)は、オープンイノベーションは、知識の方向と目的によって類型化することができると述べています。
この知識の方向とは、知識やアイデア、技術について社内から社外へ流出・提供するかの「アウトバウンド型」、反対に社外から取り込むかの「インバウンド型」の2つです。目的は、新たに技術や商品を開発または製造する「価値の創造」と、技術や知識を経済的価値につなげる「価値の獲得」に分かれます。
これらの軸によって、オープンイノベーションの戦略は以下の4つの類型に分けられることになります。
①アウトバウンド型の価値創造戦略
②インバウンド型の価値創造戦略
③アウトバウンド型の価値獲得戦略
④インバウンド型の価値獲得戦略
1つ目のアウトバウンド型の価値創造戦略とは、外部の企業や組織と連携した技術・製品開発や問題解決を行うために、自社の技術や知識を外部に提供することです。プラットフォームやコミュニティの形成、パートナーシップの締結などがあります。
2つ目のインバウンド型の価値創造戦略とは、新しい製品開発を行うために、自社にない技術や知識を社外から取り入れるということです。ジョイント・ベンチャーやコンソーシアムなどが該当します。
3つ目のアウトバウンド型の価値獲得戦略とは、社内で既に保有している技術や知識を外部に提供することで、経済的価値(対価)につなげる活動のことです。知財の売却やスピンオフなどが該当します。
4つ目のインバウンド型の価値獲得戦略とは、自社の商品やサービスに他社の技術を活用することで利益を生み出すことです。企業の買収や知財の購入などが該当します。
クローズドイノベーションとの違い
冒頭で述べたように、オープンイノベーションとは反対の概念として「クローズドイノベーション」があります。このクローズドイノベーションとは、製品開発や研究開発を自社の人材やリソースだけで実施する、文字通りクローズドな環境下でのイノベーションのことです。
これまで日本企業の多くが採用してきた方法ですが、自社のみで完結させるためには莫大な手間と時間がかかるため、激しく変化する環境には対応することができません。また、閉鎖的な環境においては、なかなか固定概念から脱却できず、新しい技術やアイデアを取り入れることが難しくなってしまいます。
そのため、最近では、クローズドイノベーションではなくオープンイノベーションを推進する必要性が高まってきているといえます。
オープンイノベーションの課題
クローズドイノベーションによる成功体験の方が馴染み深い日本企業の多くは、オープンイノベーションを実施していないというのが現状です。しかし、その他にもオープンイノベーションの推進に立ちはだかる課題が存在します。
アイデア・技術流出の問題
他社との知識や技術の組み合わせにより実現するオープンイノベーションでは、自社の特許や技術に関する機密情報が他社に流出する危険性が考えられます。そのため、事前に提携する企業や組織とどこまで情報を公開するかなど、明確なルールを作っておかなければなりません。
また、すぐに実現不可能な情報も含まれているため、オープンイノベーションに必要な組織体制の構築や新たな人材獲得にかかるコストを踏まえた上で、技術者の派遣の有無、コスト負担の割合なども考慮しておく必要があります。
自社開発力衰退の恐れ
組織の枠組みを超えて外部からのアイデアを結集するオープンイノベーション。自社では生み出せなかったものや考えつかなかったことを蓄積できる反面、自社の研究開発を衰退させてしまう恐れが生じます。その理由としては、オープンイノベーションへ優秀な人材や資金を投資するあまり、既存の研究開発に割ける投資割合が極端に減少する可能性があるためです。これは研究開発部門の人材のモチベーション低下や、人材流出の可能性にもつながっていきます。
これまでの自社の競争優位性を保ってきた自社開発力と、新たに取り組むオープンイノベーションとのバランスを考えながら、適切な経営資源の投入を行う必要が求められていきます。
利益率の低下
外部と連携する以上、オープンイノベーションで得た収益は企業同士で分配しなければなりません。自社のみで製品・サービスを開発した場合に、全ての利益が自社に還元されることと比較すると、利益率はどうしても低下してしまいます。また、利益分配についてはトラブルの要因となることもあります。お互いに不利益となることのないよう丁寧に調整していくことが必要です。
オープンイノベーションを成功させるカギ
上述のような課題も踏まえ、初めてオープンイノベーションに取り掛かる場合、成功させるための秘訣とは一体どのようなものなのでしょうか。ここでは、オープンイノベーション成功に向けた3つのカギを紹介していきます。
メリット・デメリットを十分把握する
オープンイノベーションの導入、もしくは参加を検討する際、自社では生み出せないリソースが得られるというメリットがある一方、情報や技術が社外へ流出しやすいというデメリットも伴われます。
そうしたメリット・デメリットの双方を十分に把握しておくと、導入前に効率の良いリソース収集のための計画立てや、情報流出防止のためのセキュリティ強化など、万全な対策を持ってオープンイノベーション導入に臨むことができます。
目的を定めて支援サービスを選択する
展開している支援サービスや、それぞれの特徴、強みは、各オープンイノベーションごとによって異なります。また、オープンイノベーションを導入したい企業なのか、大手にアイデアなどを提供したいスタートアップ企業なのかによっても、支援サービスに求めるものは違ってきます。
オープンイノベーションの目的に応じたサービスかどうか、また、自分たちが求めるものかどうかを見極めるのが重要となってきます。
オープン・イノベーションの担当者を固定する
2017年9月に行われた「オープン・イノベーションを実現する取り組みを徹底議論」の中で、コインチェック株式会社のアドバイザーを務める西條晋一さんは、オープンイノベーションを成功させるために、担当者を固定することをオススメしていました。
イノベーション担当の方が異動で毎回入れ替わるような状況では、安定した継続はできません。例えば、金融機関の担当者は短期間で変わりますが、プライベートバンクの場合、富裕層とのお付き合いのようなものがあるので、担当は同じ人の方が何かとうまくいきます。そのため、イノベーションを行うと一度決めた段階で、会社ごとに担当を決めて長い期間担当者を固定させ、窓口が誰か分かりやすい状況にしておくと、取り組みやすいでしょう。https://industry-co-creation.com/management/
オープンイノベーションの成功事例
日立製作所
株式会社日立製作所は、グローバルな社会イノベーション事業創生を加速させるために、2015年から研究開発体制を再編成し、東京、北米、中国、欧州の4地域に社会イノベーション協創センター(CSI)を設立しました。日立は、2015年12月にスマホを用いたキャッシュカードレス金融取引を実現したサービスを、日本国内の金融機関向けに販売したり、2016年2月にはアメリカの非営利団体が設立したブロックチェーン技術の国際共同開発プロジェクトに参画したり、主にFinTech分野への取り組みを強化しています。
CSI設立後、1年間の活動から得られた知見や社会のグローバルな変化を踏まえ、今後も環境や顧客が変容する中で、顧客とともに課題を見出しながら、革新的なソリューションを迅速に提供していくことにより、グローバルな社会課題の解決に貢献する活動が期待されています。
富士ゼロックス
富士ゼロックス株式会社は、都市型R&D(研究・開発)拠点を活かし、地域の方々とともに有機的なパートナーシップと相互啓発を通じて、イノベーションが持続する場の構築を目指しています。顧客が抱える課題や富士ゼロックスが抱える問題など、組織の垣根を超えてさまざまな課題を共有し、専門家やエキスパートとともに議論する場づくりを通じて、新たな価値創造につながるアイデアの検討を進めています。
複写機、レーザープリンターの製造販売で有名な富士ゼロックスは、オープンイノベーションの活用を通じて「四次元ポケットPROJECT」を展開しました。同プロジェクトは、富士ゼロックスが中心となって中堅・中小企業の技術を駆使し、ドラえもんの「ひみつ道具」を本当に作ろうというものです。東京や京都などから中小・ベンチャー企業6社が参加したオープンイノベーションとなっています。
同プロジェクトでは、第一弾の「セルフ将棋」、第二弾の「望遠メガフォン」、第三弾「室内飛行機」と、富士ゼロックスの発想や技術力、ノウハウだけでは実現が難しい製品ばかりです。中小企業が持つ技術を駆使したからこそ出来たプロダクトであり、富士ゼロックスが間に入ることによって、各企業が集結したからこそ完成した「ひみつ道具」となっています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車株式会社は、2016年12月より、オープンイノベーションプログラム「TOYOTA NEXT」をスタート。募集テーマに沿った新たなサービス案を、他企業、研究機関等から募集し、選定先とサービスを共同開発していく内容です。
少子高齢化、都市部への人口集中、地方の過疎化、ITやテクノロジーの発展など、さまざまな社会変化によって多様化していく顧客ニーズに対応していくことが求められると考えたトヨタは、従来の自前主義(クローズドイノベーション)に囚われず、新しいアイデア、テクノロジー、ソリューション、すでにサービスを開始している事業を活用し、新たなサービスを共同開発していくことを目的としました。
TOYOTA NEXTの選考には、およそ500を超えるアイデアが応募され、その中から、株式会社カリウス、株式会社ギフティ、株式会社シェアのり、株式会社ナイトレイ、株式会社エイチームと、5つの事業会社を選定。今後はこれら5社との共同により、クルマに乗っている時以外でもトヨタと人がつながる「人を中心とした」さまざまなサービスの実現を目指していく予定だそうです。
https://global.toyota/jp/detail/18327954
ソフトバンク
携帯会社の大手であるソフトバンクは、国内外を問わず共同で事業化および商品化するパートナー企業を募集する「Softbank Innovation Program」を2015年7月31日よりスタート。革新的なソリューションや技術を持つ企業とソフトバンクのコラボによるリソースで、新たな価値の創出を目指しています。
複数の中小企業やベンチャー企業が、ソフトバンクと手を組むチャンスを得られる事例です。
現在までにSoftbank Innovation Programは3回実施されており、今年5月には、国内外の企業8社と協業し、テストマーケティングを実施して、商用化を検討する方針を図りました。中でもAIやIoT、VRなどを活用したプロジェクトが目立っています。
セコム
国内を代表する警備システム会社であるセコムでは、新たに「オープンイノベーション推進担当」を設置し、外部との連携や情報をまとめ、迅速かつ永久的なオープンイノベーションの導入を実施しました。
セコムでは、オープンイノベーション活動の一環として、社会に必要なサービスを議論していく場が必要だと考えられています。そこで、今後の社会について議論する継続的な機会と場として「セコムオープンラボ」を開始しました。
セコムオープンラボでは、分野業界を超えた参加者と未来について議論する「対話と創造の場」であります。最先端のテーマから未来の社会課題をいち早く取り込み、解決につながるアイデアを創出し、皆の中で“想い”を共有する場として設けられています。
同ラボが目標に掲げていることは、創出したアイデアの優劣よりも、参加者それぞれが「共感と新たな気づき」を得られることです。そのために、毎回テーマに合わせて趣向を凝らしながら、新鮮な切り口の議論が進む場つくりを行っています。
KDDI
通信大手のKDDIでは、シード段階のベンチャー企業を対象としたアクセラレータープログラム「KDDI∞Labo」と、そのベンチャー企業への出資プログラム「KDDI Open Innovation Fund」を、さらに2018年9月5日より、お客さまとともに新たなビジネスソリューションを創出する5G、IoTのビジネス開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」を開設しています。
同プログラムでは、登録したパートナー企業の新しいビジネスチャンス拡大を目指しています。
これらの新しいプラットフォーム、未開拓な新サービスを推進するスタートアップとともに、多種多様なアセットやノウハウを有するパートナー連合と連携して、社会にインパクトのある新たな事業の共創を目標とするものです。
ロボティクスやドローン、XR、ビッグデータなど、あらゆる分野との共創が実施されています。
https://www.kddi.com/open-innovation-program/
まとめ
今回は、オープンイノベーションの現状と重要性、課題について紹介し、オープンイノベーションを成功させるカギを解説しました。そのうえで、国内のオープンイノベーションの成功事例をご紹介しましたがいかがでしょうか?
新製品やサービスの提供に手詰まりを感じている企業と、新たなビジネスチャンス拡大を考えているスタートアップ企業の双方にとって、オープンイノベーションはプラスに働くことが分かりました。一方で、リスクや課題というのも付きもので、今後オープンイノベーションが国内で広まるにあたって解決すべき課題も多くあります。
支援サービスの利用で導入へのハードルも下がるため、オープンイノベーションが一般的な日本のビジネスモデルと化す日は近いでしょう。
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