2023.12.13

新規事業の価格戦略を徹底解説

新規事業の価格戦略を徹底解説

消費者の購買意欲を左右する「価格」。価格はビジネスの成長に多大な影響を及ぼす変数であり、新たな製品で新たなマーケットに参入する際、「適性価格」を見つけることが非常に重要です。本記事では身近にある価格の概念を新規事業視点で見つつ、大きな成長につながる価格戦略について徹底的に解説します。

価格戦略の重要性

価格戦略はなぜ重要なのでしょうか?

価格戦略の重要性500のSaaS会社に実施されたリサーチによると、ビジネスを成長させる原動力である「顧客獲得」「顧客維持」「価格」のそれぞれの戦略に1%増しのリソースと時間を割いたら「価格」戦略から一番大きなリターンを得られたそうです。

このリサーチによって「新規顧客獲得」と「顧客維持」に力を入れるより、「適切な価格による収益化」に力を入れる方がビジネスにもたらす成長が大きいことが分かりました。

価格温度計

価格温度計

上記の図は価格戦略の構造を描いた「価格温度計」です。商品の価格を決める際に重要な変数が2点あります。それらは商品(プロダクト)開発にかかった売上原価(COGS)と一般のユーザーが認知するバリュー(視覚価値)です。

商品価格と売り上げ原価の差(マージン)が大きければ大きい程、企業側の販売意欲が高まりますが、消費者の購買意欲が下がります。反対に、バリュー(視覚価値)と商品価格が大きければ大きいほど消費者の購買意欲が高まりますが、企業側の販売意欲が低下します。これら変数の相関関係と相互作用に注視し、適正価格を見極める必要があります。

価格温度計を操作できるサイトがありますので、気になる方はお試しください

https://s3.amazonaws.com/he-assets-prod/interactives/069_value_pricing_thermometer/Launch.html

新規事業に合った価格戦略メソッド

適正価格の見つけ方には様々なメソッドがございますが、本記事では代表的なメソッドを2つ紹介します。

①コストプラスメソッド(実費精算基準法)

コストプラスメソッドコストプラスメソッドとはプロダクトやサービスの価格を決断するにあたって発生した全ての変動原価(売上高の増減に比例して増減する原価)を基準に値入れ率(商品原価と売価の差額の原価に対する比率)を加算し算出するメソッドです。簡単に説明しますと以下の様な例が挙げられます。製品を開発・販売するのに100円かかった場合、25%の値入れ値を加算し価格を125円にします。一つの製品を販売するごとに25円の利益が発生します。コストプラスメソッドは非常にシンプルなメソッドであり、一般の人が価格戦略と聞いて無意識に想像するメソッドであると思います。

②バリューベース・プライシング(バリューに基づく価格戦略)

バリューベースプライシング

バリューベースプライシングとはある特定の顧客(ターゲットにしている顧客セグメント)の既存商品に対する知覚価値に対し、競合と差別化した要素(強み・弱み)を「差別化された価値として算出」する価格戦略です。非常に難しい概念ではありますが、簡単に説明すると、コストプラスメソッドは自社の商品開発やサービス運用コストを基準に価値を算出する(価格温度計だと売上原価→商品価格)のに対して、バリューベースプライシングは市場で受け入れられている価格や消費者が認知している価格を基準に自社の差別化している要素を加え価値を算出します(価格温度計だと知覚価値→商品価格)。

上記の2つのメソッドの中でも新規事業開発に効果的なのはバリューベースプライシングだと言われています。理由としては新規事業は今までにないプロダクトやサービスを前提としているものが多く、イノベーション要素が強いため、既存のプロダクトに対し「差別化した要素」を算出するバリューベースメソッドが最適なのです。また革新性のあるプロダクトやサービスであれば、顧客が認知しているバリュー以上の価格設定も可能になることも利点です。

一方でコストプラスメソッドはビジネスの収益性を考える際は非常に便利でシンプルですが、問題は顧客が認知、又は、期待しているバリューを無視しているのです。サービスやプロダクトを開発するコストは顧客の消費意欲や行動に全く影響を及ぼしません。スターバックスでフラペチーノを頼む時、アップルストアでMacBookを購入する時、顧客が見ているのバリューに対する価格です。フラペチーノの開発・準備にかかったコストや時間は顧客の購買意欲とは無関係であるということを念頭におく必要があります。

アーリーアダプターの重要性

アーリーアダプターの重要性

上記の図はプロダクトのライフサイクルを5つのフェーズに分けたグラフとなっています。

初期の開発段階・リリース期はサービス・プロダクトの蓋然性が実証されておらず、検証を進めながら行います。そのフェーズにおいて一番重要になってくるのが「アーリーアダプター」という顧客セグメントです。

アーリーアダプターとは「新しいもの好き」とも呼ばれ、新しい製品、イノベーション、またはテクノロジーを他のユーザーよりも早期に受け入れる個人または企業を指します。アーリーアダプターはプロダクト・サービスを利用することで「コスト削減」「効率化」「市場参入度の向上」「社会的ステータスの向上」のいずれかが実現すれば、通常のバリュー以上(プレミアム)の価格を支払うと言われています。

様々な実証実験によると、アーリーフェーズのプロダクトの需要は2~5%の顧客セグメントであるアーリーアダプターが導入するまでビジネスの成長が加速しないことが証明されています。

なぜ新規事業の価格戦略が難しいのか?

これまで、価格戦略において重要な変数や適正価格を図るメソッドを紹介してきましたが、それでも尚、新規事業においてなぜ適正な価格を判断するのが難しいのかは以下の3点に帰結すると言えます。

①消費者の意向と行動を変える必要がある

イノベーティブなプロダクト程マジョリティのユーザーに受け入れられない傾向にあります。革新的なプロダクトやサービスは人々の生活をよりよくする反面、生活の変化を要求します。多くのユーザーは新しいことを試すより、従来のやり方やあり方を選択し、新しいものを拒絶する傾向にあります。前述したようにプロダクトリリース時はプロダクトやサービスのソリューションに共感し、バリューに対する価格を享受してくれるアーリーアダプターに使ってもらうのが重要になります。

②一般のユーザーはリスクを背負いたくない

新規事業は既存の事業よりもたくさんのリスクを孕んでいることは皆さんご存知だと思います。新規事業を取り組む側からすると承知の上で開発されていると思いますが、一般のユーザーがそのリスクに付き合ってくれるとは限りません。般のユーザーはテクノロジーやイノベーションに関するリテラシーは低く従来のやり方と違う手法はある一定のリスクがあることを察知するのです。

一方でアーリーアダプターは彼らの特性上、新しいものへの関心が強く、冒険的であるため既存のサービスよりもソリューション・価格が適正であればプロダクトやサービスを使ってくれます。

③アーリーアダプターは価格よりもバリューを重視する

①と②の課題解決手段として、顧客セグメントをマジョリティの層ではなく、比較的リスクを許容するアーリーアダプターに絞るのは一つの戦略ではあると思いがちですが、この考え方にも落とし穴が潜んでいます。アーリーアダプターはマジョリティのユーザーよりもリスクを許容する反面、価格よりも潜在的ベネフィットやバリューを重視します。既存のプロダクト・サービスよりも「効率化が図れる」「競合よりもパフォーマンスを上げられる」など、課題解決がしっかりしていればしているほど、アーリーアダプターはプロダクト・サービスを利用するようになります。

価格の最適化

下記の図は価格の最適化をベースラインの価格と比較した際に他の価格がどう変動したかを示す需要イールドグラフです。価格と販売数の変動を分かりやすく可視化する際に便利ですが、適性価格を割り出すのにこのような複雑なグラフを作る必要はありません。

需要イールドグラフ

表で最適化

価格と売上の相関関係を示す表を作ると即座に最適な価格を知ることができます。

価格(¥) コンバージョン 販売数 売り上げ(¥)
¥500 20% 40 ¥20000
¥1000 15% 25 ¥25000
¥1500 10% 20 ¥30000
¥2000 2% 5 ¥10000

サービス・プロダクトの設定価格・コンバージョン・販売数の指標を使って売り上げを換算することで、その中の適性価格を知ることができます。上記の表ですと、青で示している価格が最も高い売り上げを出しているので適性な価格であると言えます。

10-5-20のルール

10-5-20のルールは近年新規事業のSaaSの適性価格を図る上で話題になっている戦略です。かの有名なベンチャーキャピタルY Combinatorも推奨する価格戦略です。

10-5-20のルールは非常にシンプルで以下の様に表現されます。

1.バリュー=価格×10
2.5%値上げ
3.20%の顧客減

1.新しいプロダクトを売り込む時、顧客に対しては設定した価格の10倍(視覚価値)のバリューがあるという売り込みをします。顧客の視覚価値が10倍という認知が確立すると、ユーザーの間で最初に設定した価格は破格の値段であるということになります。

2.最初の値段設定と視覚価値が確立出来たら、販売数が10上がる度に価格の値段を5%ずつ値上げします。

3.顧客数のピークから顧客数が20%減るまで5%値上げをし続けます。100人の顧客がピークであれば80人まで下がった価格が適正となります。

まとめ

本記事では「新規事業」を軸に価格戦略の世界を見てきました。ビジネスシーンで新規顧客獲得や顧客維持について頻繁に議論されていますが、価格戦略もそれらと同等、または、それ以上に重要な概念であります。新規事業に携わってる皆さんも、これを機に自社サービス・プロダクトの価格戦略を見直されてはいかがでしょうか?

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