2023.11.21

M&Aを活用した新規事業開発の進め方と注意点

M&Aを活用した新規事業開発の進め方と注意点

新規事業開発には、社内の新規事業プログラムや社外を巻き込んだアクセラレータープログラム、ボトムアップ/トップダウン、M&A/提携など、様々な取り組み方/アプローチがあります。
今回はM&Aによって自社外の人材・技術を取り込み、新規事業開発を推進するアプローチについてご説明します。

M&Aの概況

まずM&Aの全体感を把握しましょう。2019年の日本企業が関わった企業のM&Aの件数は4,088件で、前年比6.2%増、3年連続で過去最多となり、M&Aはますます身近な経営アプローチになってきていると言えそうです。

出典:coindesk JAPAN

ソフトバンクグループのZホールディングスによるLINE買収や、ヤフーによるZOZOの買収など、大手対大手のM&Aがニュースで話題になりましたが、ベンチャー企業を対象にしたM&Aも全体の3割を占めています。

次にM&Aの目的を整理しましょう。様々な類型がありますが、買い手企業側の狙いを軸にすると、以下の大きな3つが挙げられ、その中の多角化を細分化すると計4つが挙げられます。

  • 企業/事業規模拡大
  • バリューチェーン強化
  • 多角化
    • 多角化に向けた人材獲得
    • 多角化に向けた技術獲得

最もイメージしやすいのは規模の拡大やバリューチェーン強化のためのM&Aでしょう。規模の拡大はソフトバンクによるスプリントのM&A、バリューチェーン強化はビックカメラによるエスケーサービス(家電の配送・取り付けなど、家電販売の後工程を対象に事業を行っている企業)のM&Aが該当します。

人材獲得や技術獲得のためのM&Aでは、Appleが例として挙げられます。2013年に3Dモーションセンサーを手がけるPrimeSenseのM&Aを、2014年には会員制のストリーミングミュージックサービスを展開するBeats Musicと、Beatsヘッドフォンやスピーカーを製造するBeatsElestronisのM&Aを行っています。

こうしたM&Aは、新規事業開発においてどのようなメリット/デメリットがあるのでしょうか。

M&Aを利用した新規事業開発のメリット/デメリット

新規事業という文脈では、前述のM&Aの目的のうち、特に人材・技術獲得に該当するケースが多いと思われます。もちろん、新規事業が事業として成立した後、規模拡大・バリューチェーン強化のためにM&Aを行うことは考えられますが、それはすでに「新規事業」ではなく「既存事業」と呼ぶべき段階になっていると考え、この記事では説明を割愛します。

中小企業・小規模事業者に限った調査ではありますが、新規事業開発にあたって「必要な技術・ノウハウを持つ人材が不足している」と感じている企業が多くいることがわかります。


出典:2017年版「中小企業白書」第2部 第3章 P.355

新規事業を推進するために、ベンチャー企業やスタートアップを買収し、売り手企業の人材を獲得する。そうすることで、買い手企業は自社にはない風土も獲得できる可能性が高まる上、人材育成の時間や工数を削減できます。

また、技術獲得を目的としたM&Aも増えてきています。技術革新のスピードがますます加速し、どのような技術開発に投資すべきか非常に悩ましいと感じる企業も多いのではないでしょうか。さらに、投資したからといって必ずしも成功しない場合もあります。そのリスクを回避するために、すでにある特定の技術を持った企業を買収することが選択肢になります。先にご紹介したAppleもこのケースに当てはまるでしょう。

とは言え、必ずしもいいことばかりのM&Aではありません。人材獲得を目的としてM&Aを行ったのに、統合後すぐに人材が流出するケースや、買い手企業の制度に組み込まれたために新たな技術を開発できなくなるケースも想定されます。

結果としてM&Aの成功率は3~4割とも言われる、リスクを多分に含んだアプローチです。


出典:デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 M&A経験企業にみるM&A実態調査(2013年)

新規事業開発にあたってM&Aを活用するためには、どのような点に注意すればよいでしょうか。

M&Aを利用した新規事業開発の進め方/注意点

ここでは特に注意すべき、目的に合ったアプローチの選択と、M&Aの相手との目線と時間軸の認識合わせをご紹介します。

まず、新規事業においてM&Aを活用するためには、目的を明確にし、それに適したアプローチを検討・採用することが必要になります。M&Aは目的ではなく、あくまで目的を達成するための手段です。外部の人材や技術が必要な領域に進出する場合でも、M&Aが最適なアプローチにならないこともあります。

例えば、自社内の人材育成・組織強化を新規事業の目的の一つとする場合、アクセラレーションプログラムというアプローチで外部の知見を取り込む方がよい可能性もあります

一般的に人材育成・組織強化より事業創出を最優先する場合はM&Aがより適していると言えますが、M&Aの中にも様々な形態があります。M&Aは狭義では「買収・合併」を指しますが、広義では「資本参加・提携」も含みます。

顧客のニーズが顕在化している事業領域では、短期的に成果を挙げるために買収・合併、または資本参加する場合もマジョリティ投資が適する場合が多いです。逆に顧客のニーズが潜在的な場合、買収・合併まで進めるとそれ自体がリスクになりうることから、マイノリティ投資や(もはやM&Aではありませんが)資本参加を行わない提携が適する場合が多いです。

このように「M&A」と言っても、目的や顧客ニーズの状況などにより、様々なアプローチが考えられます。どのようなアプローチが最も適しているのか、それを見定めることが最初の、かつ、最重要なステップです。

そして、適切なアプローチを選んでもうまくいかないケースがあります。その大半は「双方の新規事業開発における目線と時間軸が合っていないこと」と言えます。「何を目的として、どのくらいの時間軸で、どのくらいの事業規模や事業貢献を目指すのか」の認識や想いが一致していないまま、M&Aという形を追い掛けてしまうと、当初の目的は達成できません。

M&Aの候補企業を洗い出し、その企業と目線・時間軸が合わない場合は、無理にM&Aを進めず、候補企業から外すか、まずは提携という関係に留めるという判断も重要です。同様のリスクはオープンイノベーションでも散見されます。ご興味のある方は、オープンイノベーションの現状とは?最新事情を徹底解説もご覧ください。

弊社Relicは今回ご紹介したM&Aを含むイノベーション戦略の策定から、M&Aを含む協業先の要件設計・リストアップ・協業打診といった実行もご支援しております。新規事業に課題をお持ちの方はお気軽にお問い合わせください。

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