2024.3.14

『イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメント』で、構造的に不確実性をコントロールする

『イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメント』で、構造的に不確実性をコントロールする

コロナ禍をはじめとしたビジネス環境の変化により、イノベーションの必要性やノウハウが多く語られる昨今、新規事業への取り組みを行って初めてスタートラインに立てるという状況になりつつあります。
書籍/Webの情報も増えている中、弊社Relicの代表 北嶋が不確実性の向き合い方を体系的にまとめた『イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメントーー不確実性をコントロールする戦略・組織・実行』(北嶋 貴朗 著/日経BP 日本経済新聞出版)をご紹介します。

イノベーションや新規事業の必要性

冒頭でもお伝えした通り、ここ数年で新規事業やイノベーションについての書籍やWebメディアの記事が多く見られるようになってきました。なぜ新規事業やイノベーションが多く語られるようになってきたのでしょうか。本書では、①世界的に見た日本のイノベーション力のランキングの低下や注目度の低さ、②ソニーやホンダに代表される世界的イノベーションをリードした日本の再興、③国内市場の縮小と課題先進国としての可能性の3つの観点から新規事業が多く語られるようになった要因を説明しています。

こういった背景の中、政府の後押しもあってベンチャー・スタートアップの活動が加速しています。しかし世界的イノベーションを生み出す「日本の再興」という観点から見ると、ベンチャー・スタートアップの台頭・成長だけに頼ることの限界もあるでしょう。

「豊富な経営資源を持つ大企業の新規事業こそ、日本経済にインパクトを与える」と本書では語られています。大企業による新規事業・イノベーションの可能性と意義への言及は、類書と一線を画す点です。

新規事業開発の阻害要因

先述の通り、新規事業やイノベーションの必要性はある程度納得感があり、各社の取り組みも増えていると思います。一方で新規事業やイノベーションが必ずしも全て成功するわけではなく、日の目を見ないアイデアが多くあります。それはなぜでしょうか?

本書はまず、新規事業と既存事業の相違点の説明から始まります。新規事業は、市場や顧客が不明確でデータもないケースが多く、結果的に事業プランや計画の精度が低くなる、すなわち不確実性が高いという特徴が述べられています。

一方、これまでの事業運営実績が存在する既存事業は、データもあり、事業プランや計画の精度も(相対的に)高く、不確実性が低いという特徴があります。意思決定の仕方も難易度も、新規事業と既存事業では大きく違うということです。

その前提を踏まえ、北嶋は新規事業がうまくいかない理由を3つにまとめています。

  • ビジョンや新規事業開発に関する方針・戦略がない
  • 良質な多産多死を実現するための組織になっていない
  • 自社の性質や事業の不確実性に応じた事業開発プロセスを実行していない

これらを順番にご紹介します。

ビジョンや新規事業開発に関する方針・戦略がない

方針・戦略がなければ、多くの社員にとってどのような新規事業の領域を目指すべきかがわからず、マネジメント層にとっては社員から出てきた事業アイデアが自社の新規事業として適切なのかどうか判断できないということになります。こちらは後ほど「インキュベーション戦略」として詳述します。

良質な多産多死を実現するための組織になっていない

「良質な多産多死を実現する」という考えがなければ、成功確率が「センミツ(千に三つ=0.3%)」と呼ばれる新規事業開発においてリスクを取って挑戦する人材を生み出し、育てることはできません。

自社の性質や事業の不確実性に応じた事業開発プロセスを実行していない

事業開発プロセスは企業/事業によってケース・バイ・ケースとしながらも、各社に適した事業開発プロセスを見極め、臨機応変に調整しながら体系化することが不可欠としています。

これらの3つの点は、リーン・スタートアップデザイン思考などの新規事業開発アプローチの中では十分に語られておらず、特に大企業やこれまでの歴史の長い中小企業が新規事業に取り組むにあたって十分に注意したい点です。

イノベーションマネジメントの具体的なアプローチ

それでは、具体的に「何」を「どのように」進めていくべきしょうか。ここでは本書に体型的・網羅的に記載されているアプローチの中でも特徴的なものを3つご紹介します。

▼インキュベーション戦略策定

本書で言及されている「インキュベーション戦略」とは、新規事業に関する方針や戦略全般を指します。
新規事業やイノベーションに関する活動で散見されるのは、いきなり個別の事業構想やアイデア検討を始めてしまうケースです。
ベンチャー・スタートアップの場合は、全社の方針・戦略が見えやすく、それに応じた個別の事業構想と全体のつながりは担保しやすいのですが、しっかりとした既存事業のある企業の場合、新規事業は全社的な方針・戦略を実現するための手段の一つでしかなく、改めて全社方針・戦略を踏まえた新規事業の方針・戦略を策定する必要があります。

この点も、リーンスタートアップやデザイン思考などどの新規事業開発アプローチの中では十分に語られていない点です。

インキュベーション戦略を策定するSTEP

インキュベーション戦略がなければ、どのような結果になるでしょうか。全社的な方針・戦略とのつながりが見えないまま不確実性の高いプロジェクトに取り組むことになり、当事者意識が持てず、不安な活動を進めることになります。また、全社方針・戦略との関係が不明確な新規事業のプロジェクトは、いつ何時優先度が下がり、縮小・撤退になるかわかりません。

経営層にとっては、全社方針・戦略の中での新規事業の方針・戦略がなければ、事業構想やアイデアを評価できないということにもつながります。

インキュベーション戦略の策定にあたっては、本書で図示されている「魅力的なビジョン策定に向けた論点」や「新規事業開発における投資領域を検討する際のマトリクス」などを参考にしていただければ幸いです。

▼事業構想のアプローチ

「事業構想」「アイデア検討」というと、肩に余計な力が入ってしまい、思うように検討を進められないことが多いのではないでしょうか。

本書では初期段階の事業構想に大きく2つの軸があるとしています。

  1. 構想の起点や進め方の軸
    構想の起点は「顧客と課題」か「提供価値と解決策(製品やサービスのアイデア)」
  2. 解決する課題の定義の軸
    検討の起点は「通常・健全な状態との差分を課題とする」か「理想と現状との差分を課題とする」

事業構想フェーズのアプローチ分類

事業構想やアイデア検討を進める際、本書のアプローチを参考にすることで、

  • 自社の経営資源や強みを起点に、世の中の不満を解決できないか考えてみる(アセットドリブン)
  • 日頃相対している人が何に困っているか考えてみる(マーケットドリブン)
  • こんな世界があったらいいなと考えてみる(ビジョンドリブン)
  • 社会の変化に伴って発生しそうな課題を考える(ミッションドリブン)

といった検討のきっかけをつかんでいただけると思います。

プロダクトや事業の特性に応じて最適な開発アプローチ

チームや体制を構築し、いよいよプロダクトの開発に入った段階では、開発の進め方に注意が必要です。プロダクトや事業の特性に応じて最適な開発アプローチを採択する必要がありますが、ここで誤った選択をしてしまうと膨大な時間・コストを浪費し、事業化が遅れるのみならず、本来避けられたはずの撤退を選択することになってしまいかねません。

開発アプローチは大まかに分類するとウォーターフォール型とアジャイル型の2つです。

ウォーターフォール型とアジャイル型の特徴

本書でも述べられているように、それぞれのアプローチのもつメリット/デメリットを踏まえてアプローチを選択することが非常に重要です。近年、書籍やWebメディアで取り上げられることの多いアジャイル開発が、必ずしも万能なアプローチではないことを認識して検討に進みましょう。

最適なプロダクト開発アプローチを採択する考え方

また、当然のことながら、ウォーターフォール型/アジャイル型のいずれを適用するにしても「必要最低限の製品を作り、段階的な投資で改善や修正を重ねて」いくことが重要であり、新規事業の不確実性の影響を抑制するために必要な考え方として本書では説明されています。

まとめ

『イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメントーー不確実性をコントロールする戦略・組織・実行』(北嶋 貴朗 著/日経BP 日本経済新聞出版)は、新規事業の不確実性への向き合い方をはじめ、イノベーションに取り組むにあたって必要な考え方・進め方を体系的にまとめた書籍となっています。新規事業やイノベーションに日々取り組まれている方はもちろん、日本経済や日本企業の動向を知りたい方にもおすすめの一冊です。ぜひ一度、お手にとってみてください。

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